どんぐり
いつものように寺院の裏山で遊んでいたところ、コン、と悟空の頭に何かが当たった。
悟空は上を振り仰いだ。が、大きく張り出した木の枝と、重なり合う木の葉の間からまばらに空が見えるだけで、変わったものはなにも見られない。ので、足元に視線を落としてみる。
と。
「どんぐり!」
悟空は嬉しそうな声をあげてしゃがみこんだ。
拾ったどんぐりを、コロン、と手の上で転がす。ただそれだけのことなのに、なんだか楽しくなる。
コロコロと転がしているうちに、どんどんと勢いがついていった。そして。
「あっ!」
どんぐりは悟空の掌から飛び出していった。
地面に落ちて、転がっていくどんぐりを追いかける。パッと手を伏せて捕まえ、ふと周囲を見てみると。
「うわぁ、いっぱい!」
周囲には、どんぐりがたくさん落ちていた。
悟空は次々にどんぐりを拾い上げていく。やがて掌には乗り切れなくなり、まとめてポケットに詰め込んだ。
だが、まだまだどんぐりは落ちている。
どんどんポケットに詰めているうちに上着のポケットも、スボンのポケットもいっぱいになってしまった。
もう入らない、というところで、悟空は、ふぅ、と満足気な溜息をついて、額を拭う。と、木の根元に茶色の塊が見えた。なんだろうと目を凝らしてみると、それはふわふわのしっぽをした栗鼠だった。
「こんにちは」
悟空は声をかけて栗鼠に近づく。普通ならば人の姿を見た途端に逃げ出すだろうが、栗鼠はおとなしくその場で悟空が近づいてくるのを待っていた。
小首を傾げて悟空を見上げる。
可愛らしい仕草に、悟空の顔に笑みが零れるが。
「あ」
栗鼠が手に持っているものに気づいて、ちょっとすまなそうな顔になる。
「ごめん、ごめん。君の――君たちのご飯だったね」
悟空はポケットからどんぐりを取り出した。
キッと小さく尋ねるように栗鼠が鳴く。
「大丈夫。俺は食べるわけじゃないから」
キキッ。
「そうだね。じゃ、1個だけもらえる? お土産にするから」
そういって悟空は積み上げたどんぐりから1つを取る。が、栗鼠が『ついてこい』というように一声鳴いてちょろちょろと駆け出した。
「もっと良いのがあるって?」
悟空はそう問いかけて、栗鼠の後を追った。
ちょろちょろと走っていく栗鼠を追いかけて、悟空はどんどんと人が行きそうにない山の奥にと入っていった。
すでに道といえるようなものはなくなり、普通の人間であったら進むのはもう無理だったろう。
が、悟空は気にした風もなく、軽々と栗鼠について下草を踏み分け、潅木の間を通り抜けていく。
「ね、まだ? あんまり遠くだと、日暮れまでに帰れなくなる」
日が暮れる前に寺院に着かないと飯抜き、と三蔵にきつく言われていたので、悟空にとってはどちらかというと気になるのはそちらの方だった。
「ねぇ」
もう一度、声をかけようとしたとき。
突然、視界が開けた。
どうしてこんなところにこんな場所が。
呆気にとられるほど不思議なことに、突然、ぽっかりとそこだけ広い空間が開けており、大きな木が一本真ん中に立っていた。
木の根元には小さな祠が建っている。その前にあるのは。
「え? これ貰っていいの? お供えじゃないの?」
『いいよ』というように、栗鼠はキキッと鳴く。
「そう。じゃ、これ代わりに」
悟空は先ほどひとつ取ったどんぐりを祠の前に置いて手を合わせた。
「ありがとうね!」
そして栗鼠にそう声をかけると、元来た道を引き返しはじめた。
夕暮れで辺りが金色に染まるなか、悟空は上機嫌で寺院に帰っていく。両手で大事そうに祠の前にあったどんぐりを抱えて。
「三蔵にお土産♪」
喜んでくれるかな。
そんなことを考えて、悟空は花のような笑みを浮かべた。
みつまめさん宅
に線画が出ていたので、塗り絵させていただきました。
一時みつまめさん宅のトップ絵にもなっていたどんぐりを抱えた悟空。
可愛い! ものすごく可愛いですよね!
勝手に夕暮れ時の風景にして、勝手に小話をつけさせていただきました。
塗り絵はたいへんなんですけど、でも楽しい!
みつまめさま。いつもありがとうございます<(_ _)>