SPECIAL FAVORITE


 「再提出」

咥え煙草のままそう言って、俺が3日掛かって書き上げたレポートを、あろうことかクシャクシャに丸めて投げつけた。行き先は、教職員室の隅のゴミ箱。

 「無理だよ。あれ以上何を書けって言うんだよォ」
 「夏休みが欲しいなら出直して来い」

金髪紫暗の先生は、さっさと失せろと無言で手を振って見せた。
俺は犬かっつーの。

 「なぁ、さんぞー」
 「先生と呼べ」
 「さんぞーせんせー」

一度は逸れた紫暗の瞳が俺を見据えて、困った奴だとでも言いたげに眉を顰めて見せた。

夏休みに入る2週間前。
玄奘先生は突然受け持つクラスに課題を出した。
テーマは何でもいいから、レポートを出せと。「合格点を取れなかった奴に夏休みは無いと思え」と付け加えた途端、クラス中のみんなが息を呑んだ。

普段は閑古鳥が鳴く図書室が、何とか合格点を貰おうと必死こく生徒で賑わう中、俺のテーマは既に決まっていた。
クラスで一番先に提出した俺に、三蔵はちょっと驚いた風だったけど。レポートに目を通した途端、その表情を曇らせた。

で、冒頭に至るってワケ。

 「何でもイイって言ったじゃん」
 「あぁ、言った。だがな、夜の営みって何だ、このテーマは」
 「実体験に基づいたレポート」
 「―――悟空」

縁なし眼鏡を机の隅に置くと、三蔵は眉間を揉み扱くように指先をあててから大きな溜息を吐き出した。

赤裸々に綴るのは俺だって恥ずかしかったんだぜ?
例えばどんな恰好でスるのが好きだとか、一晩で最高何発ヤっただとか。
週に何度スるかとか、翌日俺がどんな状態になるか、とか諸々。

その相手が全部、眉間に皺寄せた玄奘センセーだってことも。

 「―――判った。テーマ変える。それならいーんだろ?」
 「念のため聞くが、今お前のその脳味噌に浮かんでるテーマは何だ」
 「さんぞーが俺のことどれだけ好きかって、テーマ」

こうなったらとことん書き綴ってやる。
クールで何事にも動じない教師で通ってる三蔵の、赤裸々なプライベートを。

 「―――お前は夏休みが欲しくないんだな?俺は構わんぞ。他の奴らが遊びまわってる最中、お前はひたすら学校に足運んで俺が出した課題に取り組むんだな?」
 「三蔵も一緒なら、それでもいーよ。あ、穴場に篭るってのどう?」

穴場。即ちイチャイチャ出来るカップル御用達の場所のこと。
けど、夏休みだったらあんまり関係ないかなぁ。

 「悟空。お前がその気なら、俺にだって考えはある。残念だな、折角予約したホテルはどうやら俺ひとりで行くことになりそうだ」
 「っ―――!!」

そうだ、忘れてた。
夏休みに入ったら海に行こうってふたりで決めたんだった。
真っ青な海のすぐ傍に建つ、真っ白なコテージで過ごそうって。

 「ひとりで、行くの?俺は?」
 「お前は課題をやるんだろ、この学校で。土産ぐらい買ってきてやるぞ」
 「―――う、浮気する気するだな!そうなんだろっ!!お、俺というものがありながらァっ」

ひでぇや、三蔵。俺のこと愛してないのか?そうなんだな?
浜辺でエッチするって話も、実は他の相手となんだな?

 「お前、やはり観点がずれてるぞ」

呆れた風に肩を竦めた三蔵は、背もたれに背を預けて足を組みなおした。

 「どうする、悟空。テーマを変えるのか、それとも突き通すのか」
 「―――か、変える。俺の大好物ってテーマに」
 「そうか。なら特別に、提出期限を新学期が始まるまでに延ばしてやる」

決着は簡単についた。
三蔵は満足げに俺の頭をかき回して「頑張れよ」と言ってくれたけど、俺はこっそりほくそ笑んでいた。




計画通り、白いビーチと黄色い太陽の下で夏休みを堪能した後、「俺の大好物」ってテーマの課題に取り組んだ。
その内容は新学期が始まるまで秘密。
ひとつ言えることは、三蔵はまだまだ甘い。
俺の大好物は肉まんやカレーライスとか、食い物だけじゃないってことをね。


END


華胤さま/雅〜みやび〜


「雅〜みやび〜」の華胤さまのところから、暑中・残暑お見舞い企画のお話をいただいてきちゃいました。
こういう小悪魔チックな悟空は、実はまりえさんのツボだったりします。すっごい好き。三蔵さまが振り回されているのを見るのも好きなので、この後の話も見たいなぁと思ってしまいました。