泣きたいのは


身分ある来訪者との会談という、ストレスのたまる厄介な仕事を終えて自室の扉をくぐった途端、三蔵はまわれ右をしたい心境になった。
扉を開けた真正面にはちんまりと悟空がしゃがみこみ、この世の終わりのような顔をして鼻水と涙を盛大に垂れ流していた。


「………………………………なに泣いてるんだおまえ」
「っ………ざ……んぞーのうそづきぃ…………っうぇえ」
「誰が嘘つきだ」
「…………まって…たの………にオレ……こっ…こなかっ……」
「あのなー」

なんとなく予想はつくが、とりあえず声をかけてみる。すると、やはり予想に違わぬ答えが返ってきて、三蔵はため息をついた。

「ちゃんと2時間ぐらいで戻ると言っただろうが。だいたい留守番できるって自信満々だったのはどこのどいつだ!」
「オレいっぱいまった………ぜんぜんもどってこなかった……っええええ」
「…………ああもういい泣くなうっとうしい。俺は疲れたから寝る。お前も少し昼寝しろ」

両脇に手を入れて立たせると、悟空は三蔵の腰にしがみついてしゃくりあげる。

「さんぞーおいてっちゃやだ」

鼻水と涙でベタベタの顔をぐいぐいと僧衣に擦り付けられながら、三蔵は疲れきった顔で呟いた。

「……いいかげん時間の数え方くらい覚えろ」


10分も1時間も全て「いっぱい」といって泣く子どもに、どうやって留守番をさせればいいものか。
宥めながら布団に放り込んで寝かせた悟空の背中をポンポンと叩きながら、10代の若さで育児ノイローゼになる親の気持ちが嫌というほど分かってしまう自分に、三蔵は深く深くため息を吐いた。

「勘弁しろ、泣きたいのはこっちだ猿


織花さま/森の家


織花さまのサイト「森の家」の1周年記念フリー小説です。
か、可愛い、悟空っ!
そうだよね、10分も1時間も一緒だよね。三蔵と一緒にいられないのは寂しいよね。
なんだかぎゅ〜っとしたくなっちゃいました。
織花さま、可愛い悟空のお話をありがとうございました。