こんなにも近くに居るのだから、好きになるのは当り前。

こんなにも傍に居るのだから、好きになるのは当り前。

どれくらい、ボクはアナタを好きになればいいのでしょう?


優しい言葉

辿り着いた街の、宿の一室。

そこには新聞を読み耽る三蔵と、悟空しか居ない。

悟浄と八戒は、2人で買出しに出かけてしまった。

三蔵は只管新聞を読み続けているから、その時間を邪魔しないように、悟空はベッドにうつ伏せに寝転がり。

頬杖を突いて、三蔵を眺めていた。


三蔵と、こうして2人になるのは久し振りだ。

ここのところ、野宿が続いたり、宿に宿泊しても4人部屋だったり。

そんな日々だったからきっと、悟浄も八戒と2人になりたかったのだろう。

久し振りに手に入れた2人の時間は、特に何も会話せずに、刻々と過ぎていった。


―――三蔵、少し痩せたかな?


三蔵の、顎のラインを見て思う。


―――でも、肩はあんま変わんないな。


三蔵の、肩を見て思う。


―――あ、煙草の灰が落ちそう。


三蔵の、片手に挟んである煙草を見て思う。


―――あの伏目、好き。


三蔵の、文字列を追う目を見て思う。

すると、ふと三蔵の視線がこちらに移ったので、ドキリと一つ心臓が跳ねた。


「……先刻から、何ジロジロ見てやがる。」

「んー?別に、何でもないんだけど。」

「言いたいことがあるんなら、さっさと言いやがれ。」


そんな風にきつく言われて。

そんな三蔵の口の悪さなんて、いつもの事なので特に気にもならないのだけれど。


「……ねぇ、三蔵?」

「なんだ。」


言いたいことを言えと言うから、言おうとしているのに。

三蔵はすぐに視線を新聞に戻してしまった。

それもいつもの事なので、悟空は構わず言葉を続ける。


「俺、三蔵のこと、すっげぇ好き。」

「……何度も聞いてる。」

「うん、何度も言ってるんだけど。三蔵のこと、すっげぇ好きでしょーがなくて。」

「……。」

「好きで好きで、なんだか『好き』って言葉じゃ間に合わなくなってる気がする。」

「……。」

「どんだけ、三蔵のこと好きになればいいんだろ?『好き』の上って、何?」


あまりにも真っ直ぐな悟空の言葉に、三蔵は深く溜め息を吐いて。

読んでいた新聞を畳み、眼鏡を外してこちらを再び見た。


「んなこと、俺に聞くな。」

「だって、他に誰に聞けばいいんだよ?」

「八戒にでも聞きゃあいいだろうが。」

「三蔵に教えてもらいたいんだもん。」

「何が『だもん』だ。ガキか、テメェは。」

「うん、ガキだよ。」


そんな言葉の応酬は、とりあえずそこで一度途切れ、再び三蔵は溜め息を吐いた。


「好きすぎて、時々苦しくなる。好きすぎて、時々泣きたくなる。俺、どうなっちゃうの?」


相変わらず、悟空は真っ直ぐこちらを見て言う。

それに耐え切れなくなったのか、三蔵は座っていた椅子から立ち上がった。

そしてゆっくりと歩いてきて、悟空が寝転がっているベッドに腰掛ける。


「ねぇ、三蔵。俺、どうなっちゃうの……?」


見上げる悟空の瞳が、僅かに揺らいだのを見て。

三蔵は悟空の頬に掌を寄せ、そっと撫でた。


「『好き』の上はな……。」


そう言いかけて、三蔵は少し迷った。

迷ったけれど。


「『愛してる』っていうんだよ。」


低く、小さく、耳元で囁かれたその言葉に。

一瞬キョトンとした悟空の顔が、すぐさま紅く染め上がった。

そして、胸の内がキュッと締め付けられて。

どうしていいのか分からなくなって、悟空は思わず三蔵に抱き付いた。


「どうした?」


鼻で笑いつつ、三蔵は悟空を受け止める。


「それだ、きっと。俺、三蔵のこと、愛してるんだ。」


三蔵の首筋にしがみ付いたまま、悟空は言った。


「さんぞ……好き、大好き。愛してる。」


首元で紡がれる言葉に、三蔵は眼を閉じる。

その、何と心地好い響き。

悟空が告げる言葉だからこそ、受け入れられるその想い。

相手が悟空だからこそ込み上げる、この想い。


「悟空。」


優しく呼べば、しがみ付いていた悟空が顔を上げた。

ゆるりと揺れる、金色の瞳に誘われて。

三蔵は悟空に顔を寄せ、その後は――――――――。








きっと。

お互いの存在が、本当に必要と感じているから。

きっと、これからもすぐ近くに。

すぐ隣に居るはずだから。

だから、伝え続けよう。






― ア イ シ テ ル ―





なちさま/beat sweet


なちさまのところから2周年記念のフリー小説を強奪してきました。
お久しぶりのご挨拶のあとに「ください」と…相変わらず礼儀知らずなヤツです。
でも、こーんなに甘々な小説。甘々好きには、そのまま通りすぎるなんてことはできませんよ。やっぱり甘いお話はいいですね。あぁ、幸せv
なちさま、ありがとうございました。