温泉(原作設定 旅の途中)
「やっぱりでっかい風呂は気持ち良かったな!」
にこにこと楽しそうに笑いながら悟空は部屋の扉を開ける。
着替え等が入った袋を放り投げ、ベッドにちょこんと腰かける。
「メシも超ウマかったし、久々に『当たり』って感じだな」
ここは西へ向かう途中に立ち寄った山間の温泉宿。
山越えで何日か野宿をしながら辿りついたので、余計に天国のように思える。
「……おい」
そんな上機嫌の悟空に、三蔵が低く声をかける。
「ん?」
小首を傾げ、悟空は三蔵を見上げる。
「なんで脱いでいる」
「へ?」
心底わけのわからないことを言われたというように、悟空は『きょん?』とした表情を浮かべ、帯を外し浴衣にかけていた手を止める。
「んと……着たままのが良かった? 俺としてはちゃんと触れ合える方が嬉しいんだけど」
三蔵の眉間の皺が深くなったのを見て、悟空が言葉を続ける。
「それとも自分で脱がせたかった、とか?」
「あのな」
頭を抱えるように三蔵が額に手をやる。
「なんで『スル』って前提になってる」
「え? そこ?」
びっくりしたように、悟空の目が大きく見開かれる。
「だって久し振りの二人部屋なのに。って、三蔵、シねぇつもりだったのか? そんなに疲れてる?」
それから少し心配そうな表情になる。
「そうじゃねぇ。なんでそんなにガッついてるって話だ」
「あぁ」
にっこりと笑い悟空は立ち上がる。するりと、浴衣が床に落ちる。
「だって久し振りだから」
三蔵にと近づき、首の後ろに手を回す。
「俺はずっと触れたかったよ。三蔵は違うの?」
溶けた蜂蜜のような金色の瞳が、じっと三蔵を見つめる。
それをしばらく見つめ返し。
「チッ」
三蔵は低く舌打ちをすると、奪うように口づけた。