―――今夜、星が流れるよ。
優しい風が教えてくれた。
きみだけがすべてではない。
きみがいなければすべてがない。
星明りだけの暗闇の中、一番上を目指して、木を登っていく。
夜の空気はサラリとした涼気を含んで、心地良く肌を包む。
あまり辺りがよく見えないからだろうか。昼間よりも濃く、緑の匂いが漂っていた。
「すっげぇ」
木のてっぺんに辿りつくと、突然、開ける視界。
宝石箱をひっくり返したよう。
頭上に広がるのは、そんな表現がぴったりの、一面の星空。
どこまでも、どこまでも見渡せる空なんて、見たことがなかった。
岩牢の隙間から見える、切り取られた空がすべてだった。
でも。
こんなにも、世界は広い―――。
それが、初めてわかった。
そして、こんなにも世界は近い。
触れるような気がして、手を伸ばした。
ちらちらと瞬く輝きを受けるかのように、手のひらを返したとき。
星が、流れた。
尾を引いて流れていく星。
いくつも、いくつも。数え切れないくらい。
空から、光が零れ落ちてくるよう。
綺麗。
そんな簡単な言葉さえ、出てこないほどに圧倒される。
流れゆく星の美しさに。
この世界の美しさに。
だけど。
もっと強い光を地上に感じた。
目を転じると、そこには、煌く星をすべて合わせても敵わない、強い、強い光が。
「三蔵っ」
地上の太陽をめがけて、飛び降りた。
「三蔵、三蔵、三蔵っ」
「いきなり飛び降りてくんな。危ねぇじゃねぇか」
言葉とともに落ちてきたハリセンは無視して、ぎゅっと抱きつく。
山ほどの書類に囲まれて、仕事があると言っていたのに。
それでも来てくれたんだと思ったら、ハリセンによる痛みも、他のものすべても、どうでもいいと思えた。
風も、大地も、空も、空気も、ずっと変わらず優しかったように
この人がいても、いなくても、この広い世界は変わらずに美しい。
それはわかっている。
―――わかっているけれど。でも。
見つけてしまった強い光は、何ものにも代えがたく
その圧倒的な光は、すべてを凌駕する。
すべてをかき消してしまう。
けれど、この光さえあれば、それでいいのだと。
降りしきる星の雨よりも綺麗な顔に笑いかけた。