幼馴染


 明るい暖かな陽射しを受けて、赤く熟した木苺は、キラキラと宝石のように輝いていた。

「うまそー」

 悟空は無造作にひとつ摘み取ると、ぽいっと口に放り入れた。
 甘酸っぱい香が口いっぱいにひろがる。

「うめぇ」
「先に食べるなんて、ずりぃぞ」

 ガサガサという音がして、低い木々の間からナタクが現れた。

「だって、待ってても、ナタク、全然こねぇんだもん。何してたんだ?」
「……親父に怒られてた」
「へ?」

 ナタクの答えに悟空の目がパチクリと見開かれた。
 が、驚きは一瞬で、頭の中を凄い勢いでいろんな出来事が巡る。

「……って、どれで?」
「落書きしたやつ。天帝の顔に」
「あー、あれ。傑作だったよな。あの髭」

 思わず、顔を見合わせ、二人でクスクスと笑う。

「写真、見せたら、天ちゃんも大受けしてた」
「その写真だよ」

 笑いを収めて、ナタクが言う。

「どうやら、お前のホゴシャが手に入れたらしくて、で、親父のところに回ってきた」
「げっ。金蝉に知られちゃったの?」

 あちゃー。帰ったら、拳固かなぁ。

 悟空が呟く。
 そして、おもむろにポケットからハンカチを取り出すと広げ、そのうえに摘んだ木苺を乗せだした。

「何してるんだ?」
「貢物」
「それで、拳固を逃れようってことか?」
「うん。ま、それ以外にも、金蝉、このとこ凄く忙しそうだったから」
「そうか。疲れているときには、甘いものだな」
「そ。甘いものは、気分を和らげるって、天ちゃんが言ってたよ。ナタクも、親父さんに持ってってあげれば? どうせ、喧嘩したまま飛び出してきちゃったんだろ?」
「うーん」

 ナタクは一声唸り、それから、別のところの木苺を摘み取った。

「どうせ摘むなら、こっちのがうまいぞ」
「え? そうなの?」

 不思議そうな顔を見せる悟空に、論より証拠と、ナタクは持っていた木苺を悟空の口に押し込む。

「あ、ホントだ。なんで?」

 口をもぐもぐさせて、悟空が言う。

「光がいっぱい当たっている方が、甘くなるんだ」
「へぇ。ナタクって物知りだなぁ」

 悟空の素直な賛辞に、どんなもんだいという感じでナタクは胸を張り、そして、二人で同時に笑い出した。
 光が弾けるような笑い声は、いつまでも響き渡っていた。




「おや、寝ちゃったんですか?」

 ひょいと顔を覗かせた八戒が、部屋の中を見て、笑みを浮かべた。

「ありゃ、仲がいいことで」

 続いて顔を出した悟浄も、にやにやと笑いながら言った。

「あ、ダメですよ。起きちゃいますから」

 立ち上がろうとした三蔵を八戒が止めた。

 西へ向かう途中の宿屋の一室。
 くぅくぅと、可愛らしい寝息をたてながら、三蔵の膝の上で悟空が気持ち良さそうに眠っていた。
 なんの夢を見ているのだろう。
 幸せそうな笑顔を浮かべている。

「夕飯、とっといてもらいますから、無理やり起こさないであげてくださいね」
「せっかく幸せそうな夢を見てるみたいだしな。もっとも三蔵サマのお膝の上ってーのが幸せなのかもしれないけど」

 チャキっと銃を構えた三蔵に、八戒が悟浄を蹴っ飛ばして、三蔵の視界から姿を消させた。
 その行動は、もちろん悟浄を庇ったわけではなく、悟空の眠りを妨げないようにするためだ。
 それから軽く会釈をすると八戒も姿を消す。
 部屋に静寂が戻ってきた。

「なんの夢を見ているんだが」

 銃をしまうと、三蔵は呟き、くしゃりと茶色の髪をかき回した。




 それは夢の出来事。
 だけど。
 何かが少し違っていたら。
 もしかしたら、本当だったかもしれないこと――。




幼馴染。と、聞いて、悟空とナタクを思い浮かべてしまいました。
何かが違っていたら、本当にこんなことがあったかもしれないけれど、でも、闘神として生み出されたナタクには、こんな日常はありえないのだということはわかってます。
でも、悟空の笑顔とともに、ナタクの笑顔も望まずにはいられません。
って、また三空要素が薄いです、この話…。あーうー。ココは三空サイトなのに〜。