――月を見上げるその姿はすべてが闇に沈むなか、冴え際立って見えた。



白のスイッチ


「悟空」

凛と呼ぶ声に、ゆっくりと視線が空から地上にと戻った。
半分だけ己の方を向く華奢な体を、包み込むようにして三蔵は自分の方にと向けた。
くすり、と腕のなかから笑い声が聞こえる。

「べつに月は盗ったりしない」

その言葉にますます三蔵の腕の力が強くなる。
と、笑い声が大きくなった。
くすくすという笑いを伴って、三蔵の腕の中からさらに声が響く。

「お前はときどき可愛いことをする」
「うるさい」

抱きこむことによって、笑い声はくぐもり、直接三蔵の体に振動となって伝わる。

「こんな風に閉じ込めようとしなくても、悟空の身も心もすべてお前のものだろうに」
「……だが、お前は?」

腕を緩め、覗きこむようにその顔を見ながら、三蔵は静かに問いかける。
三蔵を見上げる大きな瞳の色は金。
この世にふたつとない至高の色。

――のはずだが。

昼間に見る、あどけない柔らかな色合いとは、ここにある色は明らかに異なっていた。
月のように冴え冴えと冷たく輝く金色。
それは。

ここにいるのが、昼間の子供とは違う存在だということを示していた。

三蔵がその存在に気づいたのは、やはりこんな風に綺麗な月夜のことだった。
金錮で抑えられているはずの、桁外れに強大な力を感じた。
だが、金錮が外れたときの悟空とはまた違った感じがした。
静かで落ち着いた雰囲気を漂わせていた。
それは、三蔵の良く知る子供には欠片もない雰囲気。

いや。
そこには、なにもかもが混ざりあった存在がいるような感じがした。

あどけなく、もの静かで落ち着いているくせに、どこか残忍な感じを受ける。

それこそが本来の悟空の姿かもしれなかった。

「人の欲望は際限がない。悟空を手に入れたのだから、それで良いだろうに」
「お前も悟空だろう」
「それもそうだな」

もう一度鮮やかに腕の中の悟空は笑う。

「我もお前を気に入ってはいるよ。この体でもたらされる快楽を初めて我に教えてくれたのはお前だからな」

三蔵の目が険しくなり、眉間に皺が刻まれる。

「心配しなくても」

悟空は軽く三蔵の唇に己の唇を重ね合わせた。

「悟空が許さない限り、この体を他のものに好きにさせたりはしない」

見上げる金色には、どこか楽しげな色が浮かんでいる。

「当たり前だ。悟空は髪の毛一筋に至るまで俺のものなのだから」

それをわからせるかのように。
噛みつくように、三蔵はその唇を塞ぐ。

初めから激しく、貪るように口づける。
そして、力が抜けたようにその身を預けてくる体を支え、首筋を強く、痕が残るくらいに吸い上げた。

また悟空の楽しそうな笑い声が聞こえる。

そんなことをしても無駄だ。

そういわれているようで、ますます三蔵は眉間に皺を刻む。

「わからせてやる」

口の中だけで呟くと、三蔵は本格的に悟空の身体を開きにかかった。





秘めた甘い吐息は、闇の中、いつまでも漂っていた。




えぇっと、なんとなく「白」でコチラの方を思い浮かべました。
…なんか全然白くないですが。
この方は…むじゅかしいデス。力及ばず…な感じがします。へにゃ…。