Casual Meeting


街中で一際目立つ赤い髪を見つけた。
ので。

「ごじょー!」

近づいていって、タックルをかます。
と、勢いが良すぎたのか、悟浄がよろけた。で、どうやら立ち話をしていたらしき人に思いっきりぶつかる。

「わっ、ごめん」

慌てて謝ると、悟浄がぶつかった相手――けっこうガタイの良いお兄さんに睨まれた。
う。

「すみません」

小さくなってもう一度謝る。

「ったく、なにやってるんだよ、小猿ちゃんは。落ち着きのないコだな」

ぶつけたのがそこだったのか、おでこをさすりながら悟浄がこちらを向いた。
言い方が、なんとなく子ども扱いで馬鹿にされたような感じで、むっとくる。

「悟浄がヤワなのがいけないんじゃんか。あれくらいでヨロけるなんて、ホントはいくつ? もう足にきてるわけ?」
「なんだとー」

首に腕をかけられる。

「わー。ロープ、ロープ!」

腕をぶんぶんと振り回す。と、さきほどの男性が不思議そうな顔をしてこちらを見ているのに気づいた。
悟浄も気づいたらしく、腕の力が弱くなる。

「あー、まぁ、そういうわけだから」

腕が首から肩にと降りてくる。肩を組む感じになって、押されてその場から連れ出されそうになる。

「って、悟浄。意味がわかんないんだけど。なにが『そういうわけ』?」

わけのわかんないままなのが、すごく癪で腕を外して問いかける。

「それにお兄さん、いいの? あれ、プレゼントでしょ?」

なんだか少し途方に暮れているような男性の方を見ていう。
すると、悟浄もその男性も驚いたような表情を浮かべた。

「あ、ごめん。悟浄へのプレゼントじゃなかった?」

赤いリボンがついた箱を持ってるもんだから、てっきりそうだと思ったんだけど。

「いや……。ってか、『お兄さん』っていったか? あ、でも、そういう意味じゃねぇか」
「は? なにいってんの、ひとりで。あの人、悟浄のお兄さんじゃないの?」

そっちも間違い?
そう思って問いかけたのに、なぜか悟浄のがもの問いたげな表情を浮かべる。

「いや、兄貴なんだが……。どうしてわかった?」
「どうして、って……」

似てるじゃん、って答えようとしたんだけど、返答に困る。
改めて見てみると、顔の造作も体型も、似てるところなんてどこもなかったから。
でも。

「なんとなく……雰囲気、かな? なんか兄弟って感じがする」

それからお兄さんの方を向く。

「もしよろしければ、なんですけど。これからパーティをするんで来ませんか?」
「パーティ?」
「悟浄の誕生パーティです」

と、ひどく意外そうな表情が、お兄さんの顔に浮かんだ。

「だから、いったろ。別に大丈夫だって。だいたい誕生日を祝うなんて、ガキじゃあるまいしいまさらだろ」

横から悟浄が口を出してくる。

「いまさらじゃないだろ。いくつになっても祝ってもらうのは嬉しいもん」
「それはまだ小猿ちゃんがコドモだから」
「なんだとー」

言い合いをしてたら笑い声が響いた。
お兄さんに顔からは先ほどまでの厳つい感じは消え、人の良さそうな笑みが浮かんでいた。
うん。こういう感じ。やっぱり悟浄に似てる。

「わりぃがこれから仕事なんだ。パーティにはいけないが…。これからもあいつをよろしくな、坊主」

大きな手が頭に置かれる。がしがしと撫でられて――正直、痛い。

「安心した。お前はお前でやってるんだな」

ようやく解放してくれると、お兄さんは今度は悟浄に赤いリボンの箱を押し付ける。
それから、片手を振って歩み去っていく。

「お兄さん、誕生日に一緒にいれなくてごめん、って言いにきたの?」

その後ろ姿を見送りながら問いかけると、嫌そうに悟浄の眉間に皺が寄った。

「だからガキじゃあるまいしっていったろ」
「うーん。でも、良さそうなお兄さんじゃん」

笑いかけたら、眉間に皺を寄せたまま、悟浄はそっぽを向いた。
心なしか照れてるようで。
笑みを大きくした。