耳たぶを緩く食む


ふわりと抱きつかれ、はむはむと耳朶を口に含まれた。
三蔵はほんの少しだけ目を見開いた。
珍しいことだ、と思う。

「む……ぅ」

と、しばらくして、悟空が拗ねたような声をあげた。

「反応がない」

「あ?」

「お返しなのに」

「……なんの話だ?」

「さっきのお返し。……えぇっと、仕返しって意味の」

くすり、と笑っていうさまは子供っぽいが。

「仕返し、ね」

そっと引き寄せて、今度は三蔵が悟空の耳朶を甘噛みした。

「……っ!」

と、声にならぬ声があがり、ぐっと肩を押された。

「三蔵は駄目! 仕返しは俺がするんだからっ!」

きっと睨んでくる金色の瞳は、涙で潤んでいる。
それは悔しいとか、ましてや悲しいとかいう理由でないのは明白で――。
三蔵は微かに溜息をついた。

どうしていままで気づかずにいられたのか。
こんな表情を見るたびに不思議に思う。

「できるっていうなら、やってみろ」

三蔵は悟空を引き寄せると、その耳元に低く囁いた。


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