カミツレの優しさ
沸いたお湯に、適当に乾燥した葉を入れる。
と、独特の香りが立ちあがってきた。
三蔵は、一瞬、顔を顰め、思わず手にしていた箱の裏側を見る。
そこには『りんごのような香り』と書いてあるのだが……。
どう嗅いでみてもそのような香りとは思えない。
あまり強い芳香は得手ではない。
三蔵の眉間に皺が寄りかかるが。
「まだ?」
くいっとジーンズの膝の辺りを引かれた。
目線を下げると、ワクワクといった感じで大きな金色の目をキラキラさせて見上げる姿があった。
どうやら香りは気にしていないらしい。
なら、まぁ、よいか、と三蔵は思い、眉間の皺が消えてなくなる。
「こら。火を使っているときはこっちに来たら駄目だと言っているだろう。もう少しだから、大人しく待ってろ」
ほんの少しだけ、撫でるように頭に手をかけると、へにゃと悟空の顔が笑みに崩れた。
「うんっ」
撫でてもらったところに手をやって、悟空は嬉しそうにテーブルを回り込んで、んしょ、と自分の椅子によじ登ってそこに落ち着く。
それを確認し、三蔵はもう一度、鍋に目を戻した。
そろそろ良いだろうか。
冷蔵庫から牛乳を取り出し注ぐ。温まってきたな、というところで火を止めた。
マグカップを2つ分。茶漉しで漉しつつ、鍋から直接注ぎこむ。
ひとくち味見をして、自分の分に蜂蜜を少し、悟空の分には多めに入れる。
掻きまわしてからカップを2つ持ってテーブルに向かった。
「うささんのっ」
悟空が両手を出して待ち構えている。
のを。
「ちょっと、待て」
このままでは熱すぎる。
息を吹きかけて、冷ましてやる。
その間、悟空はワクワクとした面持ちのまま、じっと待っている。
うさぎが出てくる絵本を読んでやっていたのだが、そのなかにこの飲み物が出てきた。
しきりと悟空が飲みたがり、作ってやろうかという気になった。
材料をそろえるのに多少面倒があったが、こんな笑顔が見られたのなら良いかと思ってしまう。
「ほら」
「ありがとう」
大丈夫だろうというところでカップを差し出せば、悟空が小さな手で受け取った。
早速、こくん、と喉を鳴らして飲む。
「おいしーっ」
一段と笑みを大きくして言うのにつられたように、三蔵の表情も柔らかくなった。