Touch Me Tender
三蔵が私室に戻ると、悟空が服を着たまま寝台に転がっていた。
たぶん三蔵を待っているうちに寝てしまったのだろう。
ここ二、三日ずっとそうだ。というか、ここ二、三日、三蔵の帰りがずっと遅かった。
微かに溜息をつき、三蔵は悟空の靴を脱がせると、寝台から落ちてる足をうえにのせてやる。そして上掛けをかけてやり、自分の寝台に向かおうと行きかけるが、ふと思いたったかのように足をとめた。
珍しくもしばし迷うような素振りを見せたあとで、三蔵はゆっくりと寝台の端にと腰をおろした。
寝顔を見守るように目を下に向ける。――が、灯りはついていない。
暗がりでは細部まではわからない。
三蔵は手を伸ばし、つい最近切りそろえた髪の先に軽く指先を絡めた。
前は長く、そのまま掬いあげることもできたのだが。
こんな風に寝入っているときにはたまに戯れのようにそうしていたのだが。
それを懐かしく思うなど――。
自嘲じみた笑みを浮かべると、三蔵は手を離して立ちあがろうとする。
が。
不意に手首を掴まれた。
微かに紫暗の瞳が見開かれる。
「……猿のくせに狸寝入りか?」
だが驚いたような表情は一瞬で、揶揄するようにそんな言葉が出る。
「誤魔化すな、よ」
と、手首を掴んだままで、悟空が起き上がってきた。
金色の瞳がまっすぐ射抜くように三蔵を見る。
距離が近い。
ここまで近づけばその表情もわかる。
最近、大人っぽくなってきたのは髪型のせいだけではない――と思わせるような、そんな表情が。
「なぁ、なんでちゃんと触れねぇの?」
悟空の静かな声が響く。が、その問いかけに答えはない。
ふっ、と悟空の視線が落ちる。
「あんま――気持ち良くできなかった、から……嫌、になった?」
三蔵の目が今度は大きく見開かれた。
それから怒ったかのような険しい表情が浮かぶが。
「でも、さ――」
ふわり、と三蔵に抱きついた悟空はその表情を見ていなかった。
「俺は……すごく、嬉しかった。……だから、だから――――……。ちゃんと……今度は、できる、ようにするから……」
だんだんと抱きついてくる力が強くなってくる。
それとは真逆に、声はだんだんと小さくなっていく。
そして。
――もう一度、触れて。
その言葉はほとんど聞こえないくらいの囁きになった。
だが。
三蔵にとっては、直接、頭の中に響いたような感じがした。
それは声なき聲――。
大きく息を吐き出す。
たぶん吐き出したのは『息』だけでなく――。
なにかが吹っ切れたような微かな笑みが唇の端に刻まれる。
そしてひとこと。
「痛ぇよ」
いまやしがみつく――といっていいほどの力で、悟空は三蔵に抱きついていた。
「あ、ゴメン」
力を入れすぎていたことに初めて気づき、悟空は慌てたようにパッと三蔵から離れた。
のを、今度は三蔵が手首を掴む。
そして遠ざかる体を押し留めるように、もう一方の手を背中に回す。
「嫌になんてなるわけねぇだろ」
金色の目を覗きこむように、三蔵は悟空をまっすぐに見つめる。
「お前がいい――というのなら、な」
触れ合うほどの近さで囁く。
「遠慮はしねぇ」
そして――。
もう一度と言わず、何度でも――――……。