7. 天使と悪魔の共存


「三蔵、大好き」
 極上の笑顔で告げるその様は、無邪気そのもの。
 拾ってきてからもう何年も経つのに。外界との接触を隔絶されていた寺院にいた頃はともかくとして、西への旅に出て、世間の波に揉まれているというのに。
 その笑顔はまるで変わらない。
 引き寄せて、腕の中に閉じ込めて、唇を塞ぐ。
「三蔵……さんぞ……大好き」
 キスの合間に悟空が囁く。
 首に手を回して、もっと近くにと身を寄せてくる。
「大好き……」
 キスは軽く舌を絡めるものから、すぐにもっと深いものになる。
 甘い。
 どうして、こんなにも甘いのか。
 そして、どうしてこんなにも心地よい気分になるのか。
 どんな上等の酒も、こんなに甘く、陶酔した気分にはさせてくれない。
「さ……んぞ……大好き……だよ」
 呟く悟空が崩れ落ちてくるのを柔らかく抱きとめた。
 頬を染めて、幸せそうな表情をしている。見ているうちに、自然に笑みが浮かんできた。
 抱き上げて、ベッドに寝かせた。その上に覆いかぶさろうとして。
「待って、三蔵」
 両手で押し返された。
「今日は、やめよう」
 先程まで熱に浮かされたように潤んでいた金色の目が、すっかり落ち着いてじっとこちらを見ている。
「……何で?」
 不本意ながら、本気ということがわかって問いかける。
「だって、痛いから」
 その言葉に溜息が出そうになった。
 体を繋ぐその行為に、悟空がまだ慣れていないのはわかっている。負担をかけていることも。
 だが、こうもはっきりと拒絶されるとは。
 しかも、この状態のまま、お預けだと――?
「昨日の、まだ治ってないし」
 確かに昨日は余裕がなくて、ほとんど無理矢理だった。
 だが、苦痛の声は最初だけで、後はいい声で啼いていただろうが。
「お願い、三蔵……」
 甘い、悟空の声。
 少し上目遣いにこちらを見上げる金色の瞳。その瞳は、揺ら揺らと揺れているようで。
 ったく。
 どこでこういう手管を身につけてくるのだろう。
 溜息をついて、悟空を腕の中に抱き寄せた。
「今日、だけだぞ」
「うん。ありがと、三蔵。大好き」
 そう言って、悟空が胸に顔を埋めてきた。
 ったく。
 言っておくが、これはかなり辛いんだぞ。
 すぐにすやすやと、幸せそうな顔で安らかな寝息をたてる悟空を見下ろして思う。
 可愛らしい姿と、無邪気な残酷さと。
 それは、天使と悪魔の共存。
 こんな風に振り回されることを、誰が予想できただろう。
 だが、手離す気はない。
 もう一度、しっかりとその体を腕の中に抱き直した。