12. 最後のピース


 きっかけは何だったのだろう。今となってはわからない。
 気がついたら、あの子供は自分にとって特別な存在になっていた。
 よく笑い、泣き、怒り。くるくると表情を変える子供。
 己の中にある、忘れていた感情を呼び起こす存在。
 自分がまだこんなにも「生」に執着していたのだと思い出させる存在。

 無邪気な笑顔と信頼のまなざし。
 だが、いつからかその瞳に希うような光が宿ることに気がついた。
 苦しげな大人びた表情をするようになったことに気がついた。

 だけど、それは錯覚。
 ずっと孤独だった子供に、最初に触れた存在だからというだけ。
 雛が最初に目にしたものを親と慕うようなもの。
 広い世界を知れば、そんな感情など淡雪のように融けて無くなる。

 だから、想いを形作る最後のピースは封印しよう。
 子供が広い世界を望んだときに、笑って送り出せるように。
 その背中を蹴り飛ばせるように……。