16. 止まない雨は無い


 雨の日の三蔵は嫌いだ。
 だって、その目に俺を映してくれなくなる。
「――三蔵」
 呼びかけに答えはない。その背中が無言で『煩い』と言ってる。
 拾われたばかりの頃は、これが怖くてこっそり泣いたりもしたものだけど……。
 俺は、雨をさけるために入った荒れ寺の扉を開けて外に出た。



 雨は苦手だ。
 嫌でもあのことを思い出す。雨音に責められているような気になる。
 そして、猿が煩い。自分を見ろ、と頭の中に『声』を送ってくる。
 拾ったばかりの頃は雨が降ると姿を隠していたのに、最近はわざと目に入るようなところにいる。
 今回も、三仏神の命を受けた仕事に無理矢理ついてきた。
 構うのも面倒で無視していたら、雨をさけるために入った荒れ寺をふっと出て行った。



 激しい雨。全然、止みそうにない。しかも、夜で辺りは暗い。嫌な気分、倍増だ。
「いくら待っていても無駄。油断なんかするもんか」
 暗闇に声をかける。気配を消してこちらを窺っているのだろうけど、全然、無駄。
 こんな殺気を放っていて、よく見つからないなんて思えるもんだ。
 狙いは、三仏神から依頼されたものだろうか? それとも、金目のもの?
 何にせよ、売られた喧嘩は高値買取り。
 闇がざわりと動いた。



 外が騒がしい。あの猿は、何をしているんだ。
 扉を開けると、殺気が吹きつけてきた。
 暗闇に立つ悟空。押し寄せてくる異形の者達。
 これは――。



 全て、情け容赦なく地面に打ち倒した。
「大丈夫だよ」
 振り返らなくても、三蔵がいるのはわかった。
「雨が降ったって、本当は三蔵は、大丈夫なんだ」



 守りえなかった過去と、守る必要のない現在と――。
 この痛みが消えることは決してないだろうけど。
 ずっと過去に捕らわれている必要はない。



止まない雨は無いのだから。