18. 遥か彼方の知らない国で


 三蔵。
 それが称号だって知ったのは、名前を教えてもらった後。
 天地開元という五つの経典の守り手に与えられる称号。仏教徒の間では、最高僧として崇められる称号。
「さんぞう……」
 囁くように呼んでみる。月明かりのなか、それ自体が発光しているかのような金の髪。手を伸ばして触れてみれば、額の深紅のチャクラが露わになる。
 神の座に近き者の印。
 こうして、その胸に抱きとめられて眠ったとしても、この人の全ては俺のものにはならない。
 三蔵。その名が指し示すものがある限り。
 このまま西へ西へと旅をしていれば、いつかその名が意味をなさない国に行きつくこともあるのだろうか。それがただの名前になる国が。
 それは、きっと遥か彼方の知らない国。その国でなら、縛られるものが何もないただの人として、互いだけをその目に映すことができる。
 そう望むのはわがままだろうか。子供じみた独占欲だろうか。
 月だけが見守るなか、そっと願いを込めて、安らかに眠る愛しい人の額に口づけを落とした。