23. 昨日よりも今日よりも
「これで、ラストっ!」
凄い勢いで突進してきたヤツをかわして地面に沈めた。最後の一人。これでおしまい。
周りには累々と妖怪の死体。
いつ見ても慣れるものでもなく、嫌なものだが、向こうから襲ってくるのだから仕方ない。黙ってやられてやるつもりはないのだから。
ふっと息を吐いて、如意棒を消した。
「お見事です」
パチパチと手を叩く音がした。八戒だ。両手に袋を抱え、足元にも荷物を置いている。
「僕の出番はあまりありませんでしたね」
いつもの笑顔を浮かべて、そう言う。
その笑顔が怖いんだ、と悟浄は言うけど、そうだろうか。たまに威圧感を感じないわけではないけど、俺に向けられる笑顔はいつも優しいから、そういう怖さはよくわからない。
「八戒の出番があったら、折角の食料がだいなしになるじゃん」
このところやたらと妖怪の襲撃が多くて、町に泊まると町の人たちを巻き込んじゃうかもしれないんで野宿をすることにして、食料だけ買出しにきた。
いつものごとく三蔵は留守番で、一緒に来たはずの悟浄は途中で姿をくらまし、八戒と二人で食料を抱えて帰る途中、案の定、妖怪達が襲ってきた。
そんなに数は多くなかった。
八戒に荷物を預けて、只中に突っ込んでいった。
「また強くなりましたね、悟空」
少し眩しげに目を細めて八戒が言った。その言葉に、嬉しくなった。
「強くなるって決めたから」
伸びをするように空を見上げて言う。
空には金色の太陽。
あの太陽に恥じないように。
あの太陽といつも一緒にいれるように。
強くなる。
「そう教えてくれたのは、八戒じゃん」
もう一度、八戒に視線を戻す。相変わらずにこにこと穏やかな笑顔を浮かべている。
「ありがと、な」
落ち込んだとき、迷ったときに手を差し伸べてくれる。
八戒は優しいと思う。
「いいえ」
穏やかな笑顔のまま、首が横に振られた。
荷物を受け取りに行こうとして、カサッという音に、腕に袋を提げていたことを思い出した。
三蔵の煙草。
「そろそろ煙草が切れる頃だから、三蔵、イライラしてるかも」
袋の中を確かめつつ言う。
よし。無事。
それから、八戒の持っている荷物をひとつ受け取って、足元に置いてある荷物を拾い上げようと前屈みになった。
「煙草だけは、自分で守ろうと思ったんですか?」
と、頭の上から声が降ってきた。言われたことの意味がわからなくて、前屈みの姿勢のまま八戒を見上げた。
「三蔵の煙草だから、特別なものだから、自分で守ろうと?」
なんとなく『三蔵だから』と聞こえた。
何でだろ。そんなこと、思ったことないのに。
「えぇっと、偶然。軽いから持ってたの、忘れてた」
だって、三蔵は強いから守る必要はない。
だから欲しいのは、その強い人の隣に立てるだけの自分の強さ。
胸を張って隣に立てるだけの強さ。
「帰ろ。三蔵が待ってる」
荷物を持ち上げて、八戒に笑いかけた。
そして、足を踏み出した。三蔵が待つ方にと。
そう、きっと三蔵は待っててくれるから。
強くなるのを。並んで立てるようになるのを。
だから、強くなりたい。
昨日よりも今日よりも。