24. それって絶対プロポーズだ


「さんぞー、ご飯だよ」
 悟浄宅の食卓で新聞を読んでいた三蔵の前にお皿が置かれた。パサリと新聞を畳もうとした三蔵の手が止まった。
「おー、甲斐甲斐しいねぇ、小猿ちゃ……」
 めくっていた雑誌から目を転じ、すかさずからかおうとした悟浄の言葉も途中で止まった。
「……何だ、これは」
 最高僧さまの地を這うような声が響いた。
「へ? 何ってご飯。凄いだろ、八戒に教えてもらって、俺、初めて作ったんだぞ」
 恐ろしい声音にまったく動じることなく、悟空は無邪気に笑って答えた。
 ご飯……?
 三蔵と悟浄は思わず食卓の上のモノを見つめ直した。
 八戒が少し困ったような笑顔を浮かべながら、本物の料理の載った皿を手に台所から出てきた。
「まぁまぁ、悟空が一生懸命作ったものですから」
「八戒、猿に全部一人で作らせるな。だいだい、お前がメシを作るというから、食いにきたんだろうが」
「……ヒドイ」
 ため息とともに言った三蔵の言葉に、悟空の手が震えた。
「酷いって、小猿ちゃん。こんなもん、食わせようとする方も酷い……」
 悟浄は軽口をたたこうとしたが、無言の圧力を感じて途中でやめた。首をめぐらすと、綺麗な緑の目の持ち主がにっこりと微笑んでいた。
 ――目は笑っていない。
「ちげぇよ! そりゃ、俺だって、コレを食べて貰えるとは思ってなかったけど」
 じゃあ、出すなよ。
 それは悟空以外の全員が瞬時に考えたこと。
「三蔵。三蔵は俺の作ったメシを一生食いたいとか思わないのか?!」
 悟空は三蔵の方に向き直り、いつになく真剣な表情で三蔵に詰め寄った。
「八戒の方がいいのか?!」
 三蔵は怪訝そうな顔していたが、なんだか面倒になって答えた。
「誰かが作ったメシを一生食べなきゃいけないんだとしたら、八戒の方がいいに決まってるだろうが」
「うわーん。それって絶対プロポーズだ〜〜!」
 悟空はそう叫ぶと、一陣の風のごとく泣きながら悟浄宅を走り出た。
「……涌いてんのか、あの猿は」
 珍しくも幾分呆然としたような声が最高僧さまの口から漏れた。
「もしかして、これか?」
 同じく呆然と悟空を見送った悟浄が、ふと思いついて雑誌を広げた。そこには『心を掴むプロポーズの言葉』という特集が載っていた。そういえば、悟空もさっきまで一緒になって眺めていたが――。
「『一生、君のご飯が食べたい』ってか。いまどき流行んねーだろ、そんなの」
 つまり、悟空は三蔵が『一生、君のご飯が食べたい』と言って八戒にプロポーズしたと思い込んだということか?
 一体、どこをどうしたらそんな風に曲解できるのか。
 ありえねー。
 それは、ちょっと……。
 ったく、バカ猿。
 それぞれの思いを胸に年長者三人は、深い深いため息をついた。