28. 誰にも止められない


 力強い手に抱きとめられた。
 ずっと望んでいたことなのに、なぜか怖いと思った。
「さん……ぞっ!」
 腕の中から逃れようと、悟空は身を捩った。だが、それを三蔵は許さなかった。
 力だけなら、悟空の方が上だ。体つきはまだまだ少年のものだが、大地が生んだ唯一無二の存在は、金鈷でその大部分の力を封印されているとはいえ、人間の力を軽く凌駕する。だからこんな戒めなど、本当はないに等しい。
 だが、振りほどけなかった。
「逃げるなら、本気を出せ」
 三蔵が悟空の耳に低く囁く。悟空の動きが止まった。
「今ならまだ間に合う。俺を叩きのめして行け」
「できないよ」
 悟空は泣きそうな声で言った。
「怯えているくせに」
「うん」
「何をされるかわかっていないくせに」
「うん」
 悟空は震えながら、三蔵を見上げた。
「でも、三蔵だから。三蔵だったら、いいよ。何をしても」
「震えているくせに」
 三蔵は、乱暴に悟空に口づけた。その激しさに翻弄されて、閉じられた悟空の目から涙が一筋、流れ落ちた。
 保護者と養い子。飼い主とペット。
 そんな優しい関係が音をたてて崩れていく。
 もう誰にも止められない。