雨の向こうに
体が重い。
できればこのまま動きたくはないが、ここは旅先の宿屋だ。そうも言っていられない。
三蔵はのろのろと起き上がると、身支度を始める。
窓は閉まっているが、湿った空気に混じって微かに雨の匂いが感じられた。部屋に差し込む光はなく、外の雨は昨晩よりも強くなっているようだった。
三蔵が――正確には一足早く階下に降りて行った悟空と三蔵がこの宿に着いたのは昨夜のことだった。
三蔵法師が経文を探している。
そのことは公にされていなかったが、時折、情報通で利に聡い商人などから経文に関する情報がもたらさせることがある。たいていの場合はそれほど信憑性の高いものではないのだが、今回の情報は、経文が奪われた金山寺から運びこまれたという妖怪の拠点までの間にいくつかの目撃証言があり、目撃情報から割り出された経路も、かかる日数も理に適ったものだった。
情報としてはかなり信憑性の高いものと言える。なので、三蔵自らが出かけていって確かめることにし、例によって例のごとく『連れてけ』と騒いだ悟空を伴ってやってきたのだが――。
結果としては、経文を見つけることはできなかった。
経文が運び込まれたという妖怪の拠点は、情報通りの場所にあった。が、そこは既に拠点としては機能していなく、打ち捨てられた廃墟と化していた。とはいえ、まったくの無人というわけではなく、盗賊崩れのような妖怪達が巣食っていた。それほどの人数ではなく、また技量もそこそこだったのであっけないほど早く鎮圧し、話を聞いてみると、拠点として使われていた頃にそこにいた者もいて、経文――もしくは経文らしきものが一時そこにあったという情報は得られた。
だが、そこまでだった。
経文が置かれていたという部屋には何もなく、どこかに移動したと思われるが、その行方は分からなかった。経文らしきものと見たという者も、経文がいつその部屋から移動したのかは知らなかった。
手がかりをもとめて拠点を虱潰しに調べたが、経文に関することは些細なことですら出てこなかった。
拠点の片隅には物資の管理記録が残っていたが、そもそも経文のことは記されていなかった。記録上は持ち込まれていないので、出ていってもいない。そんな状態だ。
管理に少々杜撰なところは見受けられるが、経文をぞんざいに扱うわけはない。商人からもたされた『ここに持ち込まれた』という情報と『ここに確かにあった』という目撃情報があるにも関わらず、拠点に経文の記録が何もないのはどこか不自然だった。
continue・・・