揺り籠の護り手〜初めての〜 ◆初めてのお遣い


 目が覚めると体がだるかった。寒気もする。このところ寒かったり、暖かかったりと気候が定まらなかったので風邪でもひいただろうかと、三蔵は顔を顰める。
 ひとりならばこのまま寝ているところだが――。
 横を見れば、すぴすぴと気持ち良さそうに寝ている子供。起きたらきっと腹減ったと騒ぎ出すだろう。
 しょーがねぇな……。
 と思いつつ起き上がり、キッチンにと向かう。
 悟空の好きな甘めの卵焼きを作ろうかと、フライパンを取ろうとして。
「……っ」
 クラリ、と視界が傾いた。慌てて、近くの椅子の背に掴まって体勢を立て直す。自分で思っているよりも体調が悪いようだ。なんだか眩暈がする。
 落ち着くまで、とそのまま椅子の背に掴まっていたところ。
 ――さんぞっ
 後ろから、ドンっと飛びつかれて倒れそうになる。
 ――さんぞ?
 飛びついてきたのは、もちろん悟空だ。起きてすぐに懐いてくるのはいつものことだが、椅子の背にしがみつくようにしている三蔵の様子が変だと気付いたのか、悟空はいったん三蔵から離れると、とてとてと三蔵の前に回り込んだ。
 ――さんぞ、どうしたの?
 下から見上げるようにして、顔を覗きこむ。
「なんでも……」
 ない、と言おうとして、三蔵は咳きこんだ。
 ――さんぞっ。
 びっくりしたように、悟空はもっと三蔵の傍に寄ってこようとするが、三蔵は片手で制す。
「うつるかもしれないから、そばに寄るな」
 ――さんぞ、さんぞ。
 ふぇ、と悟空が小さく嗚咽を漏らす。
 ――死んじゃ、やだ。
「これくらいで死なねぇよ」
 なにを大げさな、と思うが、ここにきたばかりの頃、悟空が肌身離さず持っていた本のことを思い出した。そのなかには悟空にとって大切な妖がいるはずだ。傷つき、弱った妖が休む場所。そこに落ち着くまでの間、大切な者が弱っていくのを、そばで見ていたのだとしたら――。
「大丈夫。ただの風邪だ」
 三蔵は安心させるかのように悟空の頭に手を置く。


continue・・・