揺り籠の護り手〜連理


 ――さんぞっ。
 近くまでいくと悟空がぽふっと抱きついてきて、すりすりと懐いてきた。それはいつものことなのだが、なんだが少し違和感が――と思っていたところ、悟空が顔をあげ、目の前にずいっとふわふわのものを差し出した。
 ――うささんっ。
 どうやらうさぎも一緒に押し付けられていたらしい。
「お前、それ、どうした?」
 悟空の本性は狐だ。まさか、狩ってきたわけではないよな、と怖いことを考える。
 ――友達になった。ふわふわ〜。
 返ってきた答えがそれで、ほっと胸をなでおろす。それにしても、ふわふわなら、狐の姿のときの悟空もそうで別に珍しくもなんともないだろうに、なんでこんなに嬉しそうなのだろう。それとこれは話が別なのだろうか。
 ――可愛いよ。
 目の前のうさぎがさらにずいっと迫ってくる。
 これはどうしろ、ということだろうか。さきほどまでとは違う理由で三蔵は眉間に皺を寄せるが、そんな不機嫌そうな三蔵の表情に関わらず、にこにこと笑っている悟空を見て、複雑そうな表情を浮かべる。
 相も変わらずうさぎを差し出す悟空に溜息をつき、三蔵はうさぎに向かって手を差し出した。くんくんと、指先の匂いを嗅ぐような仕草をする。それは確かに可愛らしいものだ。と。
「……っ」
 なんの前触れもなく、それまでおとなしくしていたうさぎが噛みついてきた。
 ――さんぞっ。
 慌てて三蔵に向かう悟空の手から、うさぎは飛び出し、そのままどこかへ逃げて行ってしまう。
 ――さんぞ、大丈夫?
 心配そうに悟空が声をかけてくる。三蔵に触ろうとして。
 ――ぴっ。
 悲鳴のような、鳴き声のようなものをあげて、弾かれたように後ずさる。悟空は驚いたように三蔵と、それから自分の手を見つめる。手のひらが少し赤くなっていた。
 悟空は顔をしかめ、もう一度触ろうとする。が、熱いような痛いような、そんな感じで触れない。
 ――さんぞ。
 泣きそうな声で名前を呼ぶ。だが、三蔵からの返事はない。
 ――さんぞ。
 ほとんど半泣きの呼び声。
 そんな声が三蔵に聞こえていないわけではなかった。
 答えようにも答えられないような状態だったのだ。
 突然、目の前が暗くなったと思ったら、全身に痛みが走った。耐えがたい痛み。そして段々と意識が薄れていく。
 この痛みに晒されているくらいなら、意識を失ってしまった方が楽なのだが。
 泣いている声がする――。
 悟空の名を呼ぼうとして、だが叶わず、三蔵の意識はゆっくりと闇に包まれていった。

continue・・・