CROSS
「そういえば、三蔵、クローゼットが違う世界に通じてるって話、知ってる? ちっちゃい頃に読んだことがあるんだけど」
「……いきなりだな」
脈絡もなく出てきた話に、三蔵の眉間に皺が寄る。突然、なにか思いついて話し出すというのは悟空にとってはそんなに珍しいことではないが、それにしてもなんだか浮足立っているような感じがする。
「ごめん。話が来た役の舞台がファンタジーっていうのかな、この世界とは違うところで。クローゼット、見たらそういえばそんな話もあったなって。あ、でも洋風っていうより、中華風な感じなんだけど」
浮足立っているというよりも。
「そんなにその役が気になるのか?」
クローゼットを開けようとしていた悟空の手が止まる。
「――うん」
自分の気持ちを確かめるように一拍置いて、それから答えが返ってくる。
「なんだろ。どうしてかはわかんないんだけど、自分にとってすごく大事な役になりそうな気がするんだ。だからどうしても演りたいって思う。思うだけじゃ役は取れないなんだけど、な」
「それだけ気合いが入っていれば大丈夫だろ」
「だといいんだけどね」
ふっと息を吐き出し、悟空は改めてクローゼットのなかを覗きこむ。
「あれ? おかしいな。パーカー、こっちに下げといたと思ったんだけど」
奥の方にと顔を突っ込む。ごそごそと探しまわっているようだったが。
「うわあぁ」
突然、叫び声があがった。ベッドの脇の小卓に置いてある煙草を取ろうとしていた三蔵の手が止まる。
「どうした?」
「……なんて、ね」
悟空が三蔵の方を振り返る。
「迫真の演技だった?」
「アホ」
苦虫を噛み潰したような表情で、三蔵は改めて煙草にと手を伸ばす。
「悪ぃ」
えへへ、と笑っていたが。
「え?」
驚いたような声が上がる。
「二度は通用しねぇぞ」
悟空の方は見ずに煙草に火をつけながら、呆れたように三蔵が言う。
と、突然、バタン、とクローゼットが閉まる音が結構大きく響いた。なんだ、と三蔵が顔をあげるとそこに悟空はいず、クローゼットのなかから遠く、悲鳴のような声が聞こえる。
――いくらなんでもやりすぎだろう。
三蔵は眉間に皺を寄せ、クローゼットを見つめる。
大方なかに入って悪ふざけをしているのだろう、と思ったのだが。
しばらくしても、悟空は出てこない。
三蔵は灰皿に煙草を置くと、訝しげな顔で、ベッドから降りようとする。
と。
またもや突然、今度はクローゼットの扉が開いた。
「うわああぁぁっ!」
文字通り転がり落ちてくる人影。ぐるんと一回転し、起き上がる。
「びっくりした。いまのなんだ?」
金色の目が大きく見開かれる。それはとても特徴的なものだが。
「……お前、だれだ?」
三蔵は問いかける。
同じ金色の瞳、同じ茶色の髪、同じ顔――なのだが。
「へ?」
きょとん、とした顔で見上げてくる様を見つめながら、三蔵の眉間の皺がさらに深くなった。
continue・・・