夢の実


 突然、鮮やかな紅葉が目に飛び込んできた。
 はっとして、悟空は辺りを見回した。
 周囲の木々は赤や黄に色づき、錦を織りなすかのようで、たいそう美しい。風に舞う葉が色に動きを加え、はらはらと散っていくさまに飽かず目を奪われる。
 そんな風景を楽しみながらも悟空は、あれ?と思った。
 ここはどこだろう。なんでこんなところにいるんだろう。
 三蔵のいる部屋に忍んで、三蔵のそばにいたはずだ。
 いつのまにか眠ってしまったのだろうか。
 それで、僧たちにみつかって、庭に放り出されたのだろうか。
 それにしても。
 明るい日差しは、もう日が昇ってからだいぶたっていることを示しており、いくらなんでもそんなに寝こけていたというのはどうだろう、と思う。
 それに、紅葉?
 悟空は訝しげに眉をひそめた。
 いまはまだ夏の盛りで木の葉が色を変えるには早すぎる。
 だが。
 あれやこれやと考えていたことは、瞬時に消え去る。
 ふと五感以外で感じたのは。
 この気配は――。
 悟空は顔をあげ、ぱっと立ち上がると走り出した。
 引かれるように。
 行く手が明るい。
 光が見える。
 鮮やかな色彩を駆け抜け、目の前に立ち塞がるように現れた灌木を、避ける時間も惜しくて、そのままかき分けて突き進む。
 そして。
「三蔵っ!」
 叫んで、目に飛び込んできた人影に飛びつく。
 安堵のあまり、眩暈がしそうになる。
 だけど。
「なにをするっ」
 鋭い声とともに突き飛ばされた。
 コロン、と地面に転がり、悟空は驚いて人影を見上げる。
 太陽を背にして、輝く髪は艶やかな金色。
 それなのに。
「だ……れ……?」
 悟空は大きく目を見開いて、呟いた。


continue・・・