【注意】
「ensemble」と同設定のお話です。サイトではWebClapにしていました。。

【基本設定】
三蔵:ステージ中心のいわゆるカリスマモデル。
悟空:バンドのヴォーカル。可愛らしいルックスに似合わぬ美声の持ち主。


1. 雪が降ったら

 窓に張りついて、空を見上げる。
 空はどんよりと曇っていた。
「せっかくのクリスマスイブなのに、滅入るなぁ。外、寒そうだし」
「寒そうなのは、お前の格好だろうが」
 呟くと後ろから声がかかった。
「三蔵、起きたんだ」
 振り返ると、ベッドの上に起き上がった三蔵の姿が目に入った。
「ヒーターくらいつけろよ」
 煙草をとりあげて、三蔵が言う。
「ムードないなぁ。『寒いなら、あっためてやるよ』ぐらい言えないの?」
「それが望みなら、それでもいいが」
 人の悪い笑みが浮かぶ。
「いや、そういう意味じゃなくて、もうちょっと単純に毛布とかで包みこんでもらいたかっただけなんだけど」
 言いつつも、三蔵の腕のなかに戻る。
「……冷たいな。どのくらい、突っ立ってた?」
「って、なけなしの服、脱がせないでくれる?」
 羽織っただけの三蔵のシャツを脱がされる。
「あっためてほしいんだろ?」
 唇にキスが落ちてくる。
「……ふ……ぅ……」
 探るような指に、抑えきれない吐息が漏れる。
「雪……降らないかな……?」
 押し倒されたベッドの上。窓の方に目をやって呟く。
「降ったら……いいのに……ん……」
 肌を辿る暖かい唇。
「そしたら、ホワイト……」
 クリスマス。
 そう続けようとした言葉は、キスに消える。
 雪。
 嫌いだった。
 白い世界に閉じ込められて、一人なんだという気になるから。
 でも。
「余所見してねぇで、集中しろ」
 少し苛立ったような声とともに、頬を包まれて三蔵の方を向かされ、噛みつくようにキスされる。
 絡みついてくる舌。強く吸われて、クラリと頭の芯が痺れる。
 三蔵の背中に手を回して、もっと近くに引き寄せた。
 そのすべてを感じたいから。
 閉じた目の奥に、白いものが舞い散るイメージが浮かぶ。
 白い世界。
 ――二人だけならそれも悪くない。




2. 聖なる鐘の音

 夢とうつつの狭間で、鐘の音を聞いた。
 一回起きたんだけど、じゃれあった後でまた寝てしまったらしい。
「……ここ、教会なんてあったっけ?」
 のそのそと起き上がって、隣に目をやるが、もぬけのから。
 あれ……?
「三蔵?」
 名前を呼んで辺りを見回す。
 ベッドは既に冷たくなっていた。
「……もう」
 ちょっとむくれる。
 自分が一番でないと怒るくせに、人には平気でこういうことするんだから。
 少し重い体に鞭打ってベッドから降りると、床に落ちていたシャツをまた羽織って部屋を出る。
「三蔵」
 リビングに向かう途中で、コートを着た三蔵に出くわした。
「出かけるの?」
「仕事だ。言ってあったろ?」
 そりゃ、聞いてたけど。
「……何も言わないで、行こうとした」
 むぅ、と唇を突き出すと、その唇に軽く唇が重なってきた。
「いま、部屋に行こうとしたところだ」
「ホントに?」
「嘘をついてどうする」 
 軽く苦笑して三蔵が言う。
 その様子に、あぁ、綺麗だな、と思う。本当に綺麗。
 衝動のまま、ふわりと抱きつく。
「せっかくのイブなのにな。一緒にいられないなんて、つまんないよ」
「別にキリスト教徒でもないだろうに。それに、お前も夕方には出るんだろ?」
「そうだけど」
 夜はクリスマスライブ。
 歌は好きだ。
 聞きに来てくれる人たちも大好きだ。
 だけど、やっぱり三蔵は特別で。
 ふぅ、と息を吐く。
「明日はずーっとくっついてよう、な」
 ぎゅっと抱きつくと、同じだけの強さで抱き返してくれた。
 遠くで、鐘の音が鳴るのがまた聞こえた。
 澄んだ清らかな鐘の音。
 その音に、そっと願う。
 この人とずっと一緒にいられるように、と。




3. サンタクロースの贈り物

 イブの予定を聞いたときに午後から仕事だと言われた。
 夜のライブに来れる? と聞いたら、わからないと言われた。
 だから、イブは一緒に過ごせないと思ってた。
 だけど。

「お前、わかりやすすぎ」
 ガヤガヤと、人の声の賑やかな打ち上げの会場で、悟浄が声をかけてくる。
「今日、すっげぇいい声で歌ってたな」
 ……ふん、だ。
「ちょうどいいクリスマスプレゼントになるかと思ったんだが、ここまで顕著だとは思わなかった」
 微かに笑いを含んで、向かいに立っている焔が言う。
「こいつ、単純だからな」
 悟浄に髪の毛をぐしゃぐしゃにされる。
「いいじゃんか。誰だって、好きな人がそばにいれば嬉しいに決まってる」
 むっとして言ったら、二人がびっくりしたような顔で押し黙った。
 こういう時、自分がなんかとんでもないことを言ったのだとわかる。
 ……わかるんだけど、言うまでそれはわかんないし、言ったあともなにがまずかったのかは、たいていよくわかんない。
 三蔵がライブに来てくれて嬉しい、って言ったのがまずかったのかな。
 三蔵は焔のところに仕事に行ったんだけど、その焔が仕事を切り上げ、モデルたちを引き連れて、ライブにきてくれたのだ。
 もちろん、モデルの中には三蔵も含まれていた。三蔵の姿を見つけたときの感動といったら。
 神さま、焔さま、ありがとうって感じだった。
「お前、めちゃくちゃ素直」
 呆れたように悟浄が言う。
「そういう悟浄だって、めちゃくちゃ素直なくせに。すっげー上機嫌」
 焔とモデルたちを、特別にこの打ち上げに招待したから。
 綺麗なお姉さんたちが多くて、悟浄の顔は緩みっぱなし。
 ちなみに、モデルと言ってもいいくらい格好いい焔は、モデルではなくてデザイナー。俺と三蔵が出会うきっかけをくれた人。
 ま、出会いは最悪だったんだけどね。
「悟空」
 と、突然、李厘に腕を引っ張られた。
「おにーちゃんが、未成年はここまでだって。帰ろ」
「えぇぇ? ちょっと、待って、李厘っ」
 なんでこんなに盛り上がってるところ、途中退席させられるんだ?
 そう思ってジタバタするけど、戸口まで引っ張られていってしまう。
「八百鼡ちゃん、車、回してくれるって」
「へ?」
 戸口のところで頑張ろうとしたけど、李厘にそう囁かれてドアから手を離す。
「せっかくのイブだろ? 三蔵さんは捕獲済だから」
「李厘、それって……」
 三蔵と二人っきりで過ごせってこと? そのために打ち上げから連れ出してくれた?
 なんだか感極まって、涙が出そうになった。
 李厘ってば、なんていいヤツなんだ。
「感謝は後でモノで示してもらうからな」
 腰に手を当て、偉そうにふんぞり返って李厘が言う。
 そんな態度も、今は気にならない。
「なんでもOK」
 そう言って、駆け出した。




4. 蝋燭の明かりと君の声

―― Ave Maria!
Jungfrau mild
erhöre einer Jungfrau Flehen,
aus diosem Felsem, starrund wild,
soll mein Gebet zu dir hin wehen.
Wir schlafen sicher bis zum Morgen,
ob Menschen noch so grausam sind
O jungfrau, sich' der Jungfrau Sorgen,
o Mutter, hor' ein bittend Kind!
Ave Maria!

 軽く口ずさみながら、八百鼡ちゃんが持たしてくれた料理を並べる。
 うん。やっぱり、八百鼡ちゃんは気がきく。
 打ち上げでは、人と話してばっかりで、あんまり食べれなかったから。
 でもって蝋燭なんか探し出してきて、灯してみたりして。
 凄い。
 クリスマスって感じ。
 ケーキがないのが残念だけど。
 ……ケーキ、買ってこようかな。
 割と真剣に悩んでいたら、後ろから軽く抱きしめられた。
「あんまりいい声で歌うな。お前の声、セイレーンのようだと言ったろ?」
 セイレーン。
 前にも言われたことがある。
 歌声で船乗りを誘惑し、魅了するもの。
 でも。
「誘惑なら、三蔵のほうがしてる」
 耳元で囁かれた声。
 低く、甘く。俺しか知らない響きの声。
 その声の方がよほど魔力があることを、本当にこの人はわかっていないのだろうか。
 そして。
 ゆっくりと振り返った視線の先に、蝋燭の、揺れる淡い光に、照らされた姿。
 この世に存在していることが信じられないくらいに綺麗な姿。
 そんな人が触れられるぐらいに近くにいるのは。
 奇跡、なのかもしれない。
「大好き」
 だけど、『奇跡』という言葉で終わらせたくはないから。
 少し背伸びをして、そっとキスをした。
「悟空」
 そうしたら、名前を呼ばれた。
 俺しか知らない、大好きな声。
 笑みを交わし、もう一度キスをした。




5. 聖なる夜に愛を込めて

 ひとつになる瞬間は。
 いつまでたっても、痛みとか恐怖とかを感じるものだけど。
 その先にあるものが欲しいから、耐えることはできる。
 それは、快楽だけでなく――。

「大丈夫か?」
 軽く頬を撫でられる。
 それで、涙が零れ落ちたのだとわかった。
「だい……じょうぶ」
 呼吸を整えて、声を絞り出す。
 体から力を抜いて。
 ぎゅっと掴んでいたシーツも離して。
 でもそうしたら、縋るものがなくなってなんだか心細くなる。
 手を握ってほしいかも。 
 そんなことを考えながらも、もう一度シーツに指を滑らせようとしたら。
 三蔵の手に包まれた。
 なんか嬉しい。
 けど。
「なんかヘン」
「いきなりなんだ?」
「三蔵が優しい」
 言うと、思いっきり不機嫌な顔が返ってきた。
「だって、いつもは人の都合なんかお構いなしのくせに。特に最初。すっげぇ酷かった」
 言っているうちに思い出す。
 無理やりなんて、生易しいものじゃなかった。
「俺、初めてだった……あっ、や……っ」
 続けようとした言葉は、突然襲ってきた波にのまれる。
「いきなり……っ」
 刻まれる律動に、言葉が出てこなくなる。
「そういうヤツなんだろ?」
「ん……、も、ずる……」
 余裕な顔を、苦しい息のした、軽く睨む。
 けれどそれも長くは続かない。
「さ……んぞっ」
 呼ぶと、キスが降ってきた。
 とびきり甘いキスが。
「大好き」
 キスの合間に囁く。
 本当に、なんでこんなに好きなんだろう。
「愛してる」
 もう一度そっと囁くと、耳元で同じ言葉が返された。


―――――愛してる。



Christmas 5のお題より     配布元→dream of butterflyさま