本当の特別がわかるまで


 灯りを落とした暗い部屋。
「……んっ」
 微かな吐息が漏れた。
「や……、さん、ぞっ、そこ、やっ」
 甘さを含んだ囁き声に、微かに三蔵は笑みを浮かべる。
「嫌、ではないだろうに」
 室内を照らすのは月の光だけ。だが、暗がりに慣れた目には、華奢といっていいほどの細い肢体がはっきりと見てとれる。陰影に彩られ、艶やかな色香を漂わせている。
 手を伸ばし、肌に触れる。滑らかな感触が返ってくる。それを楽しみつつ、三蔵は悟空の腕を取ると、引き起こした。
「あっ」
 短い悲鳴じみた声をあげ、悟空が倒れ込んでくる。
「そんなに嫌だというなら、自分の好きなようにしてみるか?」
 柔らかく抱きとめ、耳元に囁く。
「ふっ、あっ」
 ついでに耳朶を口に含むと甘やかな声が漏れた。それがもっと聞きたくて、三蔵は舌を滑らせた。
「ん、んんっ」
 微かに身を震わせて、悟空がまるで縋るように抱きついてくる。
「どうした? 好きなようにしていいぞ?」
 そのまま動く気配のない悟空を、軽く揺すりあげる。
「や、ぁっ」
 甘く高い声をあげて、後ろに倒れそうなほど身を仰け反らせるのを支えて、引き戻してやる。
「だから嫌なら、自分の好きにしろと言ってる」
 力が入らず、崩れ落ちてくる悟空を軽く抱きしめ、見かけよりも遥かに柔らかな髪に顔を埋めるようにする。
 花のような香りがする。
 寺院のなかだ。石鹸だのシャンプーだのは、常備されているのを使っているから、自分と違うということはないはずだ。
 なのに、芳しい香りがする。不思議だ、と思う。
「……さんぞ」
 そうやって抱きしめたままでいたところ、荒く息をついて呼吸を整えていた悟空が、胸元から小さな声をあげた。少しだけ抱擁を解くと、涙に潤む金色の目と目が合った。


continue・・・