いつのときも
寺院への道を急いで戻っていく。
すごく嫌な感じがしていた。そして、予想に違わず。
「三蔵っ」
いままさに寺院の門から出ようとしている三蔵に、悟空は飛びついていく。周囲に騒めきが走るが、構わずぎゅうぎゅうとしがみつく。
「……離せ、猿」
頭の上から少し低い、あまり機嫌が良くなさそうな声が降ってくる。
が。
「やだ」
悟空はますます三蔵にしがみつく。
「だって離したら置いてくじゃんっ。今日はどこも行かないって言ってたのに」
「急に決まったことだ。しょーがねぇだろうが」
「だったら、俺も行く」
「あ?」
「一緒に行く。行くったら行くっ」
ぶぅっと唇を尖らせ、睨むように三蔵を見上げる。
「おい、いい加減にしないか」
可愛らしい様子ではあったが、見る者が見ると不遜とも取れるのだろう。三蔵の後ろに控えていた僧の一人が声を荒げる。だが、悟空はそんな声は聞こえないとでもいうように、三蔵を見上げたままだ。
「おいっ」
僧が一歩前に踏み出すが、三蔵が軽く手をあげてそれを制す。それから、ふっと息をついて、悟空の額を小突くようにする。
「いてっ。なんだよ、三蔵。ダメって言ってもついてくかんな」
「なら、さっさと用意してこい。待っててやるから」
「連れてってくれるのか?」
ぱあぁっと悟空が顔を輝かせる。
「あ。って、どこに行くんだ? 用意?」
が、すぐに小首を傾げる。
「アホ。どこに行くかも知らねぇでついてくとか言ってんじゃねぇよ」
「だって別に三蔵と一緒ならどこだっていいし」
何を当然のことを。
といったようなきょとんとした顔をする悟空に、はぁ、と三蔵は盛大に溜息をつく。
「北だ。二、三日かかる。まだ向こうは寒いだろうから、上着と着替えを取ってこい」
「わかった」
即座に走り出す悟空の背中を見送る。
「三蔵様。よろしいのですか? あのような子供を。それに我々が第一にお護りするのは三蔵様です。何かあってもあの子供まで護れるとは限りません」
「お前は最近、ここに来たのか?」
「はい。最近、推挙を受けて、三蔵様のお側に……」
「そうか。では、知らないのだな」
ずっと寺院にいるものであれば、悟空をただの子供とは思わないだろう。最近は、無邪気に外で遊び回り、子供子供した様子を見せているが、寺院に連れてこられた当初の、金錮が外れた悟空のことを忘れてしまうことなどできようはずがない。
「まぁ、いい。すぐにわかるだろうが、俺もアイツも護ってもらおうなんざ、考えてもいない。お前たちも護ってもらえるとは思うな」
そう言うと、三蔵は歩き出す。
「それはもちろん……。あ、あの。さきほどの子供は……」
待っていると言いながら、歩き始める三蔵に、僧が困惑したように尋ねてくる。
口先だけの約束――ということも考えられるが、三蔵がそのようなことをするとは思えない。そもそもそうであれば、悟空が走り去ってすぐにこの場を動いても良かったはずだ。
「問題ない。アレは――煩い」
三蔵がそんなことを言う。その真意を尋ねようとして。
「三蔵っ! 置いてかないって言ったろ!」
声とともに凄い勢いで走ってくる悟空の姿が見えた。
「遅い。陽が暮れるだろうが」
「まだ昼前! って、昼飯はどうするんだ?」
悟空は瞬く間に追いついて、三蔵の隣に並ぶ。
「長安の街で食う。だから少し急げ。昼時に間に合わん」
「え? それはタイヘン」
三蔵は、飛び出していこうとする悟空の首根っこを掴む。
「ぐぇっ」
喉が詰まったのか、悟空が潰れた蛙のような声をあげる。
「なにすんだよっ」
「勝手な行動はするな。迷子になるだろうが」
「ならねぇもんっ。……たぶん?」
「なんで疑問形で付け足してるんだ。ったく。行くぞ」
三蔵が悟空の後頭部に手を回し、小突くように先導する。
「おう」
息のあった足取りで、二人はどんどんと進んでいく。その後を慌てた様子で僧たちが追いかけていった。
continue・・・