これまでも。これからも。


 ドクン、と突然、心臓が跳ねた。
「あ、れ……?」
 寺院の門の傍の大きな木の上にいた悟空は、ぐらりと傾きかけた体を支えるため、幹にしがみついた。天性のバランス感覚の持ち主にしては珍しいことだ。
「なに?」
 なんだか変な感じがしていた。
 まだ夏には程遠いはずなのに、汗が噴き出してくる。
 いや。
 暑いから出てくる汗ではなく、冷たい、嫌な汗だ。
 一体なにが起こっているのだろう。
 少し前まではなんともなかったはずなのだが――。
 と、体を支えていた手の力が急に抜け。
「……っ」
 声を出す間もなく、悟空は木から落ちていく。
 なんとか受け身は取ったものの、落ちたときに息が止まるくらいの衝撃がきて、地面に丸まったまま動けなくなってしまう。単に落ちたときの衝撃のせいではなく、全身が気だるく、気持ちが悪く、指一本も動かせないような状態に陥っていた。
 いきなりなんでこんなことに――。
疑問は湧くが、気持ち悪さに突きつめて考える余裕はない。少しでも楽になるようにと、ただただ丸まって耐えていたところ。
「鼠じゃなくて、猿がかかったか」
 頭上で声がした。
 なんとか目だけ動かして、声のした方を見ると、若い僧が四、五人、悟空を取り囲むようにしているのが見えた。
「境内の供え物が無くなるんで、クスリを仕掛けておいたが……やはりお前か」
 肩をぐっと掴まれて、無理やり起こされる。
「触る……なっ」
 途端に全身に嫌な感じが駆け抜け、悟空は肩を掴む手を振り払うと、できるだけ離れようとするように、にじって後ろに下がる。
 普段であれば身軽に飛び起きて、さっさと手の届かないところまで走って逃げているはずだ。だが、いまは体が言うことを聞かなかった。
「触るな、ね」
 若い僧がにやにやと笑いながら言う。
「逆じゃないのか? 触って欲しいんだろ?」
 そしてもう一度、手を伸ばそうとするが。
「やめろっ」
 悟空は闇雲に腕を振って、さらに後ろに下がる。
 触れられた直後から、火がついたかのように体の中心が熱くなっていた。
 熱くて、熱くて――。
 だれかにその熱を鎮めてもらいたいと、どうしてそう思うのかもわからずに切実に願う。
 だが同時に、こいつらには触れられるのは、絶対に嫌だとも思った。
 なんだかよくわからないものが――自分では制御しえないようなものが、体の奥から湧き上がってこようとしていたが、それを押さえ込もうとするかのように、悟空はぎゅっと自分自身を抱きしめるようにする。
 喉が渇く。
 呼吸が苦しい。
 無意識のうちに大きくついた吐息が熱くて、自分でもびっくりする。


continue・・・