LONG SHOT


弧を描いて落ちてきたのを慌てて受け止めた。
両手のなかに収まるほどの小さな銃は思っていたよりも軽くて、だが確かな重量感を持ってそこにあった。

これが――三蔵の銃。

ふと顔をあげると、ジープに乗り込もうとしてる三蔵と目が合った。
が、言葉はなく、いつものように座席につく。
その後ろ姿を見ながら、もう一度、手の中の銃を握り締めた。



 ジープが停まる微かな衝撃で、悟空ははっと顔をあげた。寝ていたわけではないが、少しぼぉっとしていた。
 辺りを見回すと、畑が広がっていた。荒野のようなところを走っていたはずなのだが、いつの間に人里に着いたのだろう。
 道が続いている先には遠く、家が立ち並んでいるのが見える。どうやらそれなりの規模の街があるようだ。柵があるところが街の入り口だろうか。柵は街の外周をぐるりと取り囲んでいるようで、左右に遥か彼方まで続いている。
「どうかした?」
 前の座席で地図を広げている八戒に悟空は聞く。
「いえ。このタイミングで街に着けると思っていなかったので……。どこかで道を間違えたのかも、と」
「間違えていたとしてもいいんじゃね? 街なら宿もあるだろうし、屋根のあるところで寝られるのはいいことだ。ついでに綺麗なお姉ちゃんがいれば言うことなし」
「あなたはそうでしょうけど……。あぁ。わかりました。こっちに来ちゃったんですね、たぶん。それなら街がありますから。ってことは、やっぱり道を間違えてますね。主街道を大きく外れちゃってます。でも、まぁ」
 と、八戒は地図を畳んで、街に入る道を取る。
「確かに屋根のあるところで寝られるのはありがたいんで、とりあえず今日はこの街に泊りますか」
 泊る、という言葉に空を見上げれば、微かに金色がかり、もう夕方の様相を見せ始めていて悟空は少し驚く。
 いつのまにそんなに時間がたったのだろう。途中で昼休憩をしたのはぼんやり覚えている。それ以外は――なにをしていたのか、周囲の風景はどうだったのか、全然覚えていない。
 そんなことを考えているうちにもジープは街中にと進んでいき、やがて人が行き来している往来で停まった。
「ここ、宿屋みたいですね。ちょっと空きがあるか聞いてみますね」
 八戒がジープから降りて、目の前の建物に向かう。それを見送った後で、悟空は身を乗り出して前に座る三蔵の様子を窺った。
 顔色が悪い。かなり辛そうだ。無理もない。傷は八戒が塞いだとはいえその前に大量の血を流している。あのとき、六道とかいう僧から悟空を庇って。
 悟空はふるり、と震える。
 血を流して地面に横たわる三蔵。
 そんなのはもう二度と見たくない。
 考えると頭のなかが黒く塗り潰されそうだ。悟空は頭を振ってその光景を追い出す。


continue・・・