Love Passion


 窓の外の月の光くらいしか明かりがなくて、薄暗いせいで逆に陰影がはっきりして――端正な顔立ちがさらに際立ってるみたいだ。
 綺麗で――綺麗すぎて、なんだか彫像じみて見える。
 本当にここに『三蔵』はいるのだろうか。
 見ているうちに、不意にそんなことを思った。
 怖くなる。
 そんなことはない。ここにいるのが『三蔵』だ。
 そんなの、わかりきっていることで――というか、頭ではちゃんとわかってるのに、なんだか確かめなくてはいけない気になって起き上がる。隣の寝台にと近づく。
 そっと――起こすといけないので、本当にそっと指先で頬に触れてみる。
 ――温かい。
 自分の体温よりも低いけど、でもちゃんと温かい。
 温かいということは、彫像なんかじゃなくて、本当にちゃんと三蔵がここにいるってことだ。
 それを実感して、ほっとする。
 ほっとしたら――なぜか無性に触れたくなった。
 一瞬、ためらい、だけど衝動に突き動かされるまま触れてみる。といっても、最後の最後でギリギリで自制心が働いて、触れるか触れないか、な感じで。
 唇に、唇で。
 微かに酒臭い。それと煙草の香り。
 それから三蔵の――三蔵自身の香り。
 その香りに、記憶が呼び覚まされる。
 近くにいるときの――触れ合っているときの記憶。
 ふわりと優しく触れていくこともあれば、溶かされてしまうのではないかというくらいに熱く、激しく触れてくることもある。
 どちらの三蔵も、きっと知っている人は誰もいない。
 そういえばこんな風に触れるのも久し振りのことだ。
 外じゃ、そんなことはできない。落ち着かない。
 もうどのくらい触れていなかったのだろう。
 そんなことも忘れるくらいに緊張した日々を送っていた――のだけど、なんで触れずにいられたのか、すごく不思議だ。
 だってこんなにもすごく触れたい、と思うのに。
 触れたい気持ちに従って、もう一度、軽く唇に触れて――どうしよう、と思う。
 これじゃ、足りない。
 もっと。
 もっと――。
 でもこれ以上のことをしたら、疲れて寝ている三蔵を起こしてしまうかもしれない。
 けど――。
 ――我慢、できない――――……。
 体の内側に熱が籠ってしまったみたいで、このままでは絶対眠れない。
 だから――。
 意を決して――なんて言ったら大袈裟だろうけど、そんな気持ちで、掛け布団を捲り上げて横に置く。三蔵はいつも通り、法衣の肩を抜いて楽な格好になっている。
 細いけれど、筋肉のついた綺麗な体。
 この体が――。
 我知らず、ほぅっとついた息が熱い――……。
 眩暈がしてくる。
 ちょっと目を閉じて、安定しない視界をシャットアウトして、落ち着くためにゆっくりと息を吐き出す。それから目を開けて、そろそろと手を伸ばし、三蔵のジーンズの前を寛げた。
 心臓がドキドキと煩くなってきた。
 触れたらきっと起きてしまうだろうけど――……。
 でも。


continue・・・