導きの光


 夕日の名残りの最後の赤が消えようとする頃。
「ギリギリセーフってとこだな」
 たかたかと走ってきた悟空が、道の途中で止まる。足元は、それまでの細い獣道のようなものから、もう少し整備されたものに変わっていた。
 道の先には集落が見えている。ほどほどに大きな街のようだから、今夜はきっと屋根のあるところで寝られるだろう。
 悟空はほっと胸を撫でおろす。自分のためではなく。
「三蔵」
 後ろを振り返って手を振る。遠くから白い法衣姿が近づいてきた。
「大丈夫か?」
 悟空は迎えに行くように駆け戻る。
「心配するほどのことじゃねぇよ」
 眉根を寄せ、不機嫌そうな様子で三蔵が答える。が、ほんの少し息があがっているようだ。しかし、それもそのはずである。ここにくるまでの間に、険しい山をひとつ越えてきているのだ。普通の人間ならば、体力的に相当キツいはずだ。
 だが、それを口に出して言ってもなんの益にもならない。悟空はにっこりと笑うと、三蔵の腕に腕を絡ませる。
「な、、街に着いたら、肉まん食いたい!」
「あ? そんな暇はねぇよ」
「これから行く寺はこの街の近くなんだろ?」
「そうだ。もう日が暮れてるからな。急がねぇと」
「明日でもいいじゃん。ここまで来るのに途中頑張ったから、結構早く着いたんじゃねぇの?」
「とっとと行って、とっとと帰りてぇんだよ」
 三仏神からの命を受けての旅であった。この地で、なにか異変が起こっているらしいので、原因を突き止めて正せ、とのことだった。
 詳細は現地で聞けと言われたが、三蔵が探す師の経文と関わりのないことは明白だった。
「んでもさ」
 小首を傾げるようにして悟空が言う。
「寺に行ったら、肉抜きになるんだろ。上手いモン、食えねぇじゃん。肉まん食いてぇし、肉、食いてぇし!」
 じいぃっと金色の瞳で悟空は、三蔵を見つめる。
 しばらくして、ふうっという溜息とともに、三蔵の肩から力が抜けた。
「そうだな。今日の夜に行っても、明日の朝に行っても一緒だな」
「うん。肉まん、肉まん〜♪」
 歌うように悟空が言う。
「まだ買ってやるとは言ってねぇぞ」
「えぇっ!」
 ぶうぅと頬を膨らませる。柔らかそうな頬が強調され、なんだか突きたくなる。

continue・・・