Priority


 頭から余計なものを追い出すかのように、三蔵は静かに目を閉じた。それから視線を上げ、横に立つ悟空を見つめた。
「お前、ここを出で余所へ行かないか」
「……な、に……いって……」
 さっと、悟空の顔が青ざめたのが、薄暗がりでもわかった。
「ここはお前にとっては居心地の良い場所ではないだろう。街の方がよっぽど暮らしやすいとわかっているはずだ。ちゃんとした里親を見つけてやるから――」
「やだっ!」
 突然のことだった。
 悟空は一声叫ぶと、三蔵が事態を把握するよりも早く、三蔵にと飛びついてきた。
「やだっ、やだっ、ここにいるっ!」
 悟空と同じく夜着を一枚羽織っただけの三蔵の襟元をぎゅっと掴み、しがみついてくる。
「ここじゃなきゃやだっ!」
 大きな金色の目がまっすぐに三蔵に向けられる。
 月明かりを反射し、不安そうに揺れる瞳は吸い込まれそうに深みを増し――。
 ぐいっと三蔵は悟空を押しやった。膝の上に乗り上げるようにしている悟空を引き剥がしにかかる。
 が、捨てられてしまう、と思っているのか、ますます悟空は三蔵にしがみついてきた。
 無言で攻防を続けるなか、ふいにふわりと、良い香が漂った。
 同時にほとんど無意識のうちに、まるでその香に誘われるように、三蔵の手はいままでとは逆の動きを見せ、悟空を引き寄せた。
 腕のなかにちょうど良く収まる温かな体。引き寄せた流れで、そのまま髪に顔を埋める。さきほどの良い香はシャンプーかと思ったが、それとは違うようだ。
 花のような、そんな香だった。それは悟空自身の香なのかもしれない。
「三蔵?」
 少しくぐもったような声が聞こえて、三蔵ははっとして、顔をあげた。そして腕のなかに引き込んだ悟空から手を離そうとする。
 が。
 一度、手にした温もりを離すことはできない。離さなければ、と思っているのに。そうしなければ、きっと――


continue・・・