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 いったいどのくらいの人数がいるのだろうか。
 三蔵は周囲に目を走らせる。が、人影は暗闇と同化していて、男なのか女なのかすらわからない。
 だが、あと少しで墓地の出口だ。出てしまえば、境内には灯りがあるし、社務所にはだれかいるだろう。そう思って最後の直線を駆け抜けようとしたところ。
「――っ」
 なにかに足を取られて、地面に転がった。打ち身や擦り傷をいくつか作ったはずだが、いまは痛みは感じない。
 パシッとなにか鳴る音がした。縄か鞭か、そんなものを投げられて足を取られたのかと思うが、それも一瞬で、三蔵は素早く立ちあがると、また出口を目指す。が。
 すぐ近くで気配がする。反射的に、鳩尾と思しきところに鋭く肘を入れた。呻き声とともに気配が遠ざかる。だが直後に、いきなり思いもかけない方から手が伸びてきた。掌で鼻と口を覆われる。いや、正確にいえば布のような柔らかいもので――。
「くっ」
 すぐに振り払うが、ぐらり、と視界が傾いた。なにか薬の類を嗅がされたのだろうか。意識が遠くなる。捕まえようと伸びてくる手から必死に逃れるが、ともすると気を失ってしまいそうになる。
 体から力が抜けていく。平衡感覚がおかしい。うまく立っていられなくなって倒れそうになったところで、捕まった。腕を掴まれる。頭のなかでは振り払おうとしているが、どうやらうまくいっていないらしい。逆の腕も掴まれた。
 このままでは――と思うが、意識も薄れていく。
 が。
 突然、短い悲鳴があがって、腕が自由になる。なにがあったのか、と思う間もなく、支え手を失った体が宙に浮く。そのまま地面に打ちつけられるのを覚悟したが。
 ふわり、と背中に手を添えられた。とっさに振り払おうとするが。
「おとなしくしてて」
 囁き声に、どういうわけか動きが止まった。
 まだ大人になりきれていないような少年の声。聞き覚えはない――はずなのだが、警戒心が一瞬で消し飛んだ。不思議に思わなくもないが、いまは深く考えられない。
 力が抜けた体がうまく導かれ、ゆっくりと地面に座らされる。それから、ヒュンと空気が鳴った。
 目をあげるが、暗闇ではシルエットしか見えない。小柄な姿。――やはり少年のようだ。
 そして空気が鳴っているのは、棒のようなものを頭の上で回しているからだ。それをパシッと取ると、少年は無言で影に向かって走り出して行く。
 振り回し、突き、受け流し、打ち払う。まるで体の一部のように手に持つ長い棒を自在に操っている。流麗で無駄のない動きは舞踏を見ているかのようだった。
 やがて少年の動きが止まり、あたりは静かになった。
 静寂と暗闇に包まれるなか、少年がこちらに近づいてくる。
「陽が落ちると危険だよ」
 三蔵の前に立つと少年が静かに口を開いた。
「人がいないところには行かない方がいい」
 それからゆっくりと三蔵の方に屈みこんでくる。
 どこからともなく差し込む光を反射したのか、少年の目がキラリと光った。
 ――金色……?
 近づいてくる顔をもっとよく見ようとして――だが、三蔵の意識は急速に闇に覆われていった。


continue・・・