Re-U


「こら。なんで声を殺そうとする?」
 引き結んでいる唇を解こうとするかのように、また三蔵が唇を重ねてくる。
「だって……」
 潤んだ金色の目がふいっと逸らされる。
「恥ずかしい、じゃんか」
 小さく呟く悟空の頬が赤く染まる。
「なにが? 聞いてるのは俺だけだろうが」
「それが恥ずかしいじゃんか」
「恥ずかしがることじゃねぇだろ。それに」
 微かな笑みが浮かぶ。
「俺が聞きてぇんだよ。――お前の感じている声」
「な……っ」
 カッと悟空の頬がさらに赤くなり、抗議の声を上げようとするが、再び、胸の尖りに唇が落とされて、唇を噛みしめる。
「聞かせろよ」
 舌を這わせながら、三蔵が言う。
「うぅっ」
 嫌だ、というように、悟空は口を両手で覆う。
「悟空」
 艶を含む低い囁き声。こんなときだけ、優しく名前を呼ぶなんて。
「う……んんっ」
 抗議の声をあげるのもままならず、悟空はぎゅっと目を瞑り、歯を食いしばって声を押し殺す。
 そして。
 ふわり、と体が持ち上がるような感じがした。
 ――あれ?
 抱き上げられ、どこかに運ばれているような――そんな遠い感覚。
 だけど、それはもうさっき――?
 微かな違和感に目を開ければ、すぐ近くに三蔵の顔。
「悪ぃ。起こしたか?」
 そっとベッドのうえに降ろされる。
「あんなところで転寝してたら、風邪をひくぞ」
 ――転寝……?
 と思うが、頭が働かない。
 だが。
 離れて行こうとする三蔵の腕を、悟空は反射的に取る。
 嫌だ、と思う。さっきまでの熱が体の内に籠っているのに、どうして放っておかれるのかわからなくて。
「さんぞ」
 少し悲しくなって、名前を呼ぶ。
 ――なにか機嫌を損ねるようなことをしたのだろうか。声を聞かせなかったから? だが、いままでそんなことぐらいで機嫌が悪くなったことなどなかったのに。それとももっと根本的なことで……たとえば、もう悟空に飽きてしまったのだろうか。
 泣きたいような気持ちで見つめていると、ほんの少しだけ三蔵の目が見開かれ、ゆっくりと唇が重なってきた。
「……ぅ、んっ」
 深くなるキスに、頭の芯が溶けていく。
 キスは優しくて、飽きてしまったわけではないとわかり、安心して身を委ねる。と、素肌に自分とは違う温もりが触れてきた。脇腹から上の方に、ゆっくりと移動していく。
 自分よりも低い体温に、少し冷たいと感じ――。
 不意に意識が覚醒した。
「……っ!」
 悟空は心底びっくりして、自分に覆いかぶさっている三蔵を押しのけて、遠ざかる。
「うわあぁぁ、ご、ごめんっ」
 が、いくらなんでも、いきなり乱暴に押しのけるというのはかなり失礼なことだろうと考える理性が戻ってきて、慌てて謝る。
「なんか……っ、俺、夢見ててっ。あの……ホントごめんっ」
 いたたまれなくなってバタバタと部屋を――冷静になってみて、自分の部屋だとわかったのだが――飛び出していく。そのまま足音も荒く階下に降りて、居間にと駆けこんだ。
 居間のローテーブルには、教科書だのノートだのが広がっていた。それを見て思い出した。午前中だけ仕事に行った三蔵の帰りを待つ間、夏休みの宿題をしようと思っていたのだ。だがそのうち飽きて、転寝してしまったらしい。
 それにしても、あんな夢を見るとは。


continue・・・