終末を越えて〜碧落
目覚めると、見知らぬ天井が目に映った。
そんなことを思って、ふっとおかしくなる。見知らぬ天井が目に入るのが普通のことだ。どこか一か所に定住しているわけではないのだから。それなのに、このところいつもそんなことを思う。まるで寝ている間は『あの頃』に戻っているかのように。
でも『あの頃』だって、旅をしていたから目覚めて見るのは見知らぬ天井だったはずだ。だけど、皆がいたから。自分の居場所がそこにあったから、天井を見知らぬものとして認識してはいなかった。
昔の――随分と昔のことなのに、こんなにも鮮明にあの日々が脳裏に浮かぶのは、きっとあの二人に会ったからだ。懐かしい容姿と、そして魂を持つあの二人。
わかっている。別人だということは。同じ魂であっても、前のことはすべて忘れているだろうことも。そうでなければ輪廻転生に意味はない。
だから――。
……いや、ダメだ、と思う。そもそもこんなことを延々と考え続けていること自体、ダメだ。
悟空は一度目を閉じてからもう一度目を開けて、改めて周囲を見渡した。
この街で寝泊まりに使っていた部屋ではないし、あの二人に会ってしばらく厄介になっていた部屋でもなかった。本当に見覚えのない部屋だ。
あの二人――。
悟空は無意識のうちに、左胸の辺りを掴む。
もしかしたらあれは自分が作り出した、都合の良い夢だったのではないだろうか。そんな都合よく、二人揃って、しかも同じ容姿で目の前に現れるなんてことはありえないのではないだろうか。だとしたら、どこからが夢で、どこからが現実なのだろう――……。
ぐっと唇を噛みしめ、小さく頭を振って頭のなかの思考を追いやる。
重要なのは、そのことではない。
そして無意識のうちに小さく丸まってしまっていた身を起こし、バシンと悟空は自分の両頬を叩く。
塗り潰されたような黒い大きな影。
例え、あの二人のことが夢だったとしても、それまでもが夢である筈がない。
酷く異質で、異様で――途轍もなく強大な力を感じた。あれは――そのままにしておいてはいけないものだ。
ゾクっと背筋に寒気が走る。あれほどの敵は久しぶりだ。もしかしたら牛魔王以来かもしれない。
何にせよ、とりあえずいまは自分がどこにいて、どうしてそこにいるのか、自分の置かれている状況を把握しなくてはならない。
continue・・・