誘惑
「三蔵、ちゃんとご飯食べてた?」
三蔵は三仏神の命で一週間ぼど寺院を留守にしていた。一緒に行きたいと悟空は頼んだのだが、行き先が妖怪に寛容ではない所だったので留守番していろと言われた。
「食ってたさ」
当たり前だ、というような返事に悟空はむぅっとした顔をする。そういうことを言っても。
「なんか貰って……」
くる、と言って戸口に向かおうとしたのだが腕を掴まれた。なに? と問いかける間もなく強く腕を引かれ、今度は悟空が三蔵の腕のなかにと倒れ込んだ。
「いきなり危ねぇだろっ」
と抗議の声をあげ、続けて文句を言おうとして、その唇は塞がれる。唇で。
突然のことに思考がついていかないなか、柔らかく、しっとりと包み込まれるように唇が重なってくる。息継ぎをするタイミングを逸したこともあってか、頭がクラクラとしてくる。
「……ふっ」
ぎゅうっと腕を握ると、ほんの少しだけ唇が離れた。そのまま距離をつめてこない。不思議に思うがようやく息ができるようになったので、疑問はさておきゆっくりと吸って吐いてを繰り返す。落ち着いてきた、と思ったところで今度は軽く食むように軽く唇が重なってきた。
ちゃんと待っててくれる。
それがわかって嬉しくなるが。
「どうせならお前を味あわせろよ。久し振りなんだから」
こつん、と額を合わせ、ほとんど唇が触れるくらい距離で囁かれた。
「……なんだよ、それ」
反射的にむっとして言い返す。
唇に熱い吐息がかかるほどの距離。もう息は苦しくなくなったはずなのに、またクラクラとしてくる。このまま流されてしまいそうになる。だが、それでもなんだか『負けたくない』というような気持ちも湧いてきて唇を尖らせる。
「だいたいさ、久し振りって言うけど、三蔵が連れてってくんなかったからじゃん。俺がついてたらあんな怪我……させなかったかどうかはわかんねぇけど、でも」
「ごちゃごちゃ、うっせぇよ」
一度だけ、唇が重なる。
「いまはそういう話がしてぇんじゃねぇ」
手のひらが服の上から胸から首にかけて滑っていく。上着の襟元が引っ張られ、首筋――鎖骨に近いところにキスが落とされる。
思わずふるっと悟空は震える。三蔵の手は悟空の上着のボタンをひとつひとつ外しにかかり、ひとつを外すごとにその位置に唇を落としていく。
こういうことをされるのは嫌じゃない。嫌ではないのだけど――……。
continue・・・