特別な気持ちと曖昧と


「やだっ。ぜってぇ、やだっ」
 叫ぶ悟空に三蔵はむっとした顔をすると、机にしがみつく悟空の手を外そうとしていた手を離し、そして――。
 そして、どうしてそんなことをしようと思ったのか、わからない。
 わからないが。
 悟空の顎に手をかけて、無理やり自分の方を向かせた。
「さん、ぞ――?」
 驚いたような顔が間近に迫る。
 というか、三蔵が自分から近づいているのだが。
 それから。
 乱暴に唇を塞いだ。――自分の唇で。
 うるさい、と思ったのだ。その声がとても。
 だから唇を塞いだ。
 が、どうして唇を塞ぐのに、自分の唇を使ったのか、そしてどうしてこんなことをしているのか、自分のことなのに三蔵にもわからなかった。
 と、不自然な姿勢のまま、ぎゅっと悟空が腕を掴んできた。ただ塞いだだけの唇を離すと、悟空は反転して背中を机に預け、三蔵の両腕に手をかけて、肩で息をする。
 どうやら唇を塞がれて、どうやって息をしたら良いか、わからなくなったらしい。
 何度か深呼吸を繰り返して、顔があがる。微かに上気した頬と、苦しかったせいか潤んでいる金色の瞳。
 それが目に入った途端、どういうわけか――。
 三蔵は乱暴に悟空を引き寄せると、もう一度、その唇を塞ぐ。驚いて、抵抗する素振りを見せる悟空を腕の中に閉じ込めることで自由を奪い、唇を割って入り、深く口づける。
 腕にかけられていた手が、苦しそうに動き、それから思い切り爪が立てられた。
「……っ」
 痛みに思わず唇を離すと、睨むような顔が目に入った。気の強そうな表情だが、その瞳は微かに不安に揺れている。さきほどと同じで、それがどういうわけか、ひどく嗜虐性を誘う。
 滅茶苦茶にして、壊してしまいたい。
 そんな負の感情。
 三蔵は無言のまま、また手を伸ばして悟空を抱きしめる。
 悟空の方が力が強いのだから、こんな風に腕の中に閉じ込めたところで、本気になればすぐに抜け出せる。だが、悟空はそうはしないという確信が三蔵にはあった。
 三蔵に逃がす意志はまったくない。抜け出すには、三蔵に怪我を負わせるくらいのことをしなくては無理だろう。多少はともかく、悟空は三蔵に本気を出して手向かうことはない。三蔵を傷つけるようなことはしない。
「や、め……っ」
 小さな、震えるような声がするが、無視して唇を塞ぐ。またもや腕に爪を立てられるが、今度はそれくらいでやめてはやらない。どころか、微かに身を捩って抵抗するのも、ただ三蔵を煽るだけだ。深く口づける。このままなにもかも奪い取ってやるのも良いかもしれないと思う。
 逃げる舌を絡め取って、吸い上げる。と、戦慄くように、悟空の体が震えた。三蔵は微かに唇に笑みを刻み、翻弄するようにさらに舌を絡める。
 腕のなかで、悟空が身を固くしたのがわかった。怯えているのかもしれない。
 それでもいい。このまま引き裂いてやろうか、と思ったとき。


continue・・・