受け継がれるモノ


「なぁ、さんぞー」
 前を歩く三蔵に悟空が声をかける。
「さんぞーってば」
 返事がない。むぅっと悟空は唇を尖らせ。
「さんぞー」
 と、法衣の袖を掴んで引っ張る。
「うるせぇっ」
 途端に、ハリセンが飛んできた。
「いってぇな」
 頭を押さえてしゃがみ込む。その間にも三蔵の歩みは止まらない。
「置いていくなよ、もう」
 悟空は三蔵の元に走り寄ると、もう一度法衣の袖をぎゅっと握って、隣に並んで歩く。
「なぁ、三蔵」
「うるせぇって言ってんだろ」
 そうは言うが、今度はハリセンはない。
「機嫌悪ぃな。三蔵も腹、減ってる?」
 一瞬、眉間に皺が寄るが、三蔵は、はぁと大きな溜息をついた。
「お前と一緒にすんな」
「でもさ、これから昼ってぇのに、空気読めねぇ奴らのせいで食いっぱぐれたし、荷物は向こうだし」
 西へ向かう途中。
 ジープが通れないような険しい山道を歩いていたところ、妖怪に襲われた。悟空は『空気が読めない』と言っているが、むしろ空気を読んだ結果だろう。狭い山道で思うように動けないところを数で圧倒しようとしてきた。
 だが、そもそもの技量が違う。多少平坦なところまで妖怪達の群れを強引に突破して進み、そこから四人が別れて戦っていたのだが、終わってみると意外に引き離されてしまったらしく、周りに誰もいなかった。それに気付いた悟空は、小首を傾げ、だが、あまり気にした風もなく、辺りを見回して地形を確認すると、もと歩いていた山道の方向の検討をつけ歩き出した。
 山道に戻れば皆に会えるだろうし、そこで会えなかったとしても、昨日、野宿になったときに『この山を下りれば麓に村があるので、明日はゆっくりしましょうね』と八戒が言っていたので、サイアクの場合でも村で合流できるだろう。そう思って歩いていたところ、ちょっと外れたところで三蔵の気配がした。迷うこともなく悟空は、てててとそちらに向かって走っていく。と、木々の間に三蔵の姿が見えた。
「さ……」
 声をかけようとした途端、銃声が響いた。弾が悟空の頬を掠めて飛んでいく。
「ガ……ッ」
 のとほぼ同時に、後ろで短い絶命の声がする。
「あれ?」
 振り返ると、上段に剣を構え、いまにも振り降ろそうとしていた妖怪が倒れるところだった。

continue・・・