Wanderer -Extra-


 穏やかな日差しの振り注ぐ公園。
 そのなかでも特に日当たりの良いベンチにひとりの少年が腰かけていた。膝のうえには、真っ白で綺麗な毛並みの猫。ときおり、指を滑らすようにしてその背を撫でている。そうしながら、なにか話しかけているのだろうか。微かに唇が動く。口元には柔らかな笑みが浮かんでいた。
 少年はまったく意識していないようだが、とても幸せそうで、なんだが見ている方まで笑みを浮かべてしまうような――そんな雰囲気。
 が、公園の中央の大きな時計を振り仰ぎ、ほんの少し、少年の顔が曇る。猫を抱きあげて――ベンチの横に置いて立ち上がろうとしたようだが。
「……っ」
 白い猫が身を捩るようにして少年の胸に前足をかけ、顔を寄せて、唇をぺろりと舐めた。
 少年は短い悲鳴のような――だが、昼間の公園は色々と音が溢れているので、少年に注意を払っているのでなかったら、わからないような小さな声をあげる。
 顔を赤くして――白い猫に向かって、なにか言っている。小さな声でなにを話しているのかはわからないが、まるで文句を言っているかのようだ。
 事実、文句を言っているのだろう。
 といっても、端からみれば、単に猫に話しかけているだけで、まぁ、そんなことをする人もたまにいるので、そんなにおかしな光景ではない。
 が。
 先程のは、まるでキスシーンのようだったな、と端から見ていた赤い髪の青年――悟浄は思う。
 猫とのことに『キスシーン』と思うのも妙だが、あの白い猫が単なる猫でないことを思えば、それもまた事実だろう。
 文句を言っている間にもまた唇を舐められて、少年は真っ赤になって俯いてしまう。
 なんとも可愛らしい様子だ。
 悟浄は微かに笑みを浮かべた。


continue・・・