紅い華


まるで荷物のように悟空を肩に担いで、三蔵は部屋へ戻ってきた。
二つある寝台の一つに悟空を投げるように寝かせ、その傍らに腰を下ろした。
その途端、口を吐いて出る盛大なため息。
このまま、泥酔したまま朝まで目が覚めないことを三蔵は祈るのだった。







長い間続いた忙しさからようやく解放された三蔵は、タイミングよく酒を持って現れた悟浄と八戒の訪問を珍しく素直に喜んだ。
そして、久しぶりの酒と美味い酒の肴に少なからず浮かれていた。
だから、いつもなら飲ませないはずの酒をいつの間にか悟空が美味しそうに飲んでいたコトに気づいたのは、ずいぶんと時間が経ってからだった。

誰が最初に飲ませたのか?

考えるまでもなく犯人は容易に知れて、三蔵は二日酔いした気分になった。

悟空は酒に弱い。
当たり前だ。
まだ、未成年なのだから飲めなくて当たり前だ。
けれど、とある事件で知り合ったいらぬお節介をやく輩が、教えなくていいことを次から次へと悟空に教えた。

飲酒もその内の一つだ。

舐める程度なら三蔵も何度か経験させた。
だが、コップ一杯飲ませることから始まったそれは、予想だにしない事態を招いた。
そう、悟空は酒にすぐに酔い、あっという間に前後不覚になる。
その上、絡み酒だ。
それも三蔵にだけ絡み付く。
些細なことで三蔵を問い詰め、文句を言い、感情が高ぶれば泣き出したり、そうでなければ「三蔵、大好き」と辺り憚らず連呼し、「三蔵は自分を好きか?」と何度も訊き、答えなければ飛んでもないことを口走る。
それはもう普段の何倍も喧しい。
その上、見かねて悟浄が止めても、八戒が宥めても効き目がなく、返って火に油を注ぐ形になるのだ。
お陰でその悟空の狂乱を三蔵が一手に引き受けなければならない。
そうなればおちおち酒も飲んではいられないのだ。

今夜も、三蔵が気づいた時にはすでに、立派に悟空は出来上がっていた。

「さんぞー、俺のこと好き?」

頬を酒で赤く染めて、潤んだ瞳で訊いてくる。
返事をしないでいると、三蔵を見つめる金眼がみるみる透明な雫を溢れさせた。

「ひどいよぉー…俺のぅことぉ…好き勝手しっ───…っぐぅ」

三蔵に縋りつかんばかりに身体を寄せて大きな声で何を口走る気か。
その口を三蔵が塞ぐ前に、横にいた悟浄が塞いだ。

「──っあ…そこまでっ」

そう、放っておけば三蔵と自分との閨での営みを、睦言を挙げ連ね、口走り出すのだ。
あの時、こう言ったのに。
この時は、ああだったのにと。
いくら三蔵と悟空との関係がそうだとしても、まだあどけなさの残る悟空が三蔵とイタしてる様子を口走る姿など、一度見れば十分だと、悟浄も八戒も思っている。
だから、止める。
もうそれは必死で。
悟浄に口を塞がれて悟空はじたばた暴れたが、構わず悟浄は悟空の口を手で塞ぎ続けた。

「……三蔵…悟空、堪ってるんですか?」
「何が…?」
「まあ…色々と、ですよ」
「知るかっ」

半ば引きつった顔で八戒が悟空の顔を眺め、三蔵に目顔で何をしたのかと訊いてくる。
そんなこと自分の方が知りたいと、三蔵は思う。
確かに、ここしばらく仕事が忙しくて構ってやらなかったことは事実だが、それが原因とも思えない。
何しろ、昨夜、散々可愛がってやったのだから。
八戒の咎めるような視線に、三蔵は何とはない居心地の悪さを感じて苛立たしげに舌打つと、コップの中のビールを呷った。

悟空は口を押さえる悟浄の手から何とか逃げ出し、立ち上がった。
その様子に八戒と三蔵が驚いた顔を向ける。
それに構わず、悟空は一瞬、顔を歪めると、三蔵に飛びつくように抱きついた。
その勢いに三蔵は危うく後ろにひっくり返りそうになる。

「おいっ」
「答えなくてもぉーわかってるからねぇー」

いきなり抱きついてきた悟空を引きはがそうと、躍起になる三蔵を尻目に悟空は、抱きついた身体を少し起こし、三蔵の顔をそれは幸せそうに見つめ、

「さんぞーだぁいすきぃ──っ」

そう言って三蔵の首筋にもう一度、しがみつくように抱きついたかと思う間もなく、悟空の身体から力が抜けた。
三蔵が首筋に絡まった悟空の腕を外して顔を覗き込めば、気持ちよさそうな寝息が聞こえたのだった。













「…さん…ぞぉ…」

幸せそうな何とも言えない顔付きで三蔵の名前を呟き、悟空はすぴすぴと気持ちよさそうに眠っている。
その姿をしばらく三蔵は眺め、起きる気配がないことを確認すると、湯殿に行った。

「…さ…んぞ…喉、乾いた…」

三蔵が湯殿へ寝室を出たすぐ後、もぞりと、喉の渇きを覚えた悟空が半ば夢うつつで、寝台に身体を起こした。
が、少しぐらい眠ったぐらいで三蔵の予想以上に身体に堪った酒気が抜けるはずもなく、悟空はまだ立派に激しい酔っぱらいだった。

「さんぞぉ…?」

ろれつのよく回らない口調で三蔵の名を呼び、寝台に座り込む。

「…んっ…暑い──っ」

酒の所為で上がった体温に我慢できずに悟空は着ていた服を脱いだ。

「ふぁ…気持ち──…いいィ…」

脱いだ服を寝台の下に投げ落とし、悟空はパンツ一枚の姿で寝台にまた寝転がった。
シーツの冷たさが火照った身体に気持ちが良い。
暫く、ごろごろと冷たいシーツに懐いていた悟空は、ふと伸ばした自分の二の腕に咲いた紅い華に気づいた。

「あっれぇ──?」

酔いで鈍った思考にもそれが何か理解した悟空は、もぞもぞと起き上がって自分の身体を見回した。
見れば所構わずに紅い華が咲いている。
それは、三蔵が悟空と身体を重ねた証拠であり、愛された証だった。

「うふふぅ──さんぞぅ…ってばぁ、やっだぁ──っ」

自分の身体を抱きしめて、悟空は嬉しそうに身悶えた。
そして、何を思いついたのか、楽しそうに笑ったのだった。













熱い湯に浸かって身体を伸ばす。
それと共に堪った疲れと酒が抜けていく気がして、三蔵は深く気持ちよさそうな吐息をこぼした。
伸ばしたまま湯船に顎まで浸かって、さあ、上がろうかと身体を起こしかけた時、三蔵の背中に悪寒が走った。

「……な、んだ…?」

ぞくりとした悪寒は侵入者がいるとか、敵意を感じるとか、そう言った類のモノではなく、ただの悪い予感と言った方が正しいかもしれない。
その予感に三蔵はせっかく伸びた眉間にまたシワを刻んだ。

「ひょっとして、サルの奴、起きたのか?」

湯船から上がりかけた身体をもう一度沈め、三蔵は風呂の縁に両腕を組んだ上に顎を乗せた。

「……まさか、な」

酔っぱらったまま寝た悟空が目を覚ますことは滅多にないが、覚ますと泥酔していた時より尚、始末が悪くなる。
それはもう、お前は一体いくつのガキだ?と問いかけたくなる程の赤ちゃん返りの姿を見せる時もあれば、べったり抱っこちゃん人形もかくやという程に三蔵に抱きつき、一晩離れない時もあれば、延々けたけたと笑いながら笑えない冗談を言い立てる時も、理解しているのかいないのか、夜の営みについての耳年増な説教を垂れる時もある。

が、行動は一定しない。
予測が付かないのだ。

だから、三蔵は悟空が泥酔した日の夜は悟空がどうぞ朝まで目が覚めないようにと、柄にもなく神仏に祈るのだ。
けれど、日頃の不信心が祟ってか、聞き入れられた試しはない。

しかし、よくよく考えれば、酒を飲み過ぎれば喉が当然のように酷く喉が渇く。
喉が渇けば、当然、目が覚める。
至極、当たり前のことだ。
分かっている。
分かっているが、三蔵はつい、願ってしまうのだった。

悪寒を感じた現実から逃げる様に、いつまでも湯に浸かっている訳にもいかず、三蔵は、

「起きてるなよ」

祈るように呟いてようやく、風呂からあがった。
そして、夜着に着替えて寝室へ戻った三蔵が見たのは、戸口に立つ自分をそれは嬉しそうに見つめて笑うパンツ一枚の姿の悟空だった。













「………」

寝室の入り口に立った三蔵は、にこにこと嬉しそうに笑って寝台に座る悟空と対峙したまま動けなかった。
悟空は三蔵が昨夜付けた紅い華を常夜灯のオレンジ色の光に晒したまま、蕩けた視線を三蔵に投げている。
その口元に浮かぶ微笑みは、嬉しそうと言うよりは何かロクでもないことを思いついた笑みに三蔵には見えた。
ために、それは本当に道の真ん中で苦手なモノに出逢った気分で、三蔵の足は寝室の戸口から動こうとしない。
そんな三蔵に悟空は、焦れたというよりは思いついたことを早く実行したいというわくわくした様子を振りまいて寝台から降りると、三蔵の傍へ覚束ない足取りで近づいてきた。





まだ、酔っぱらってやがる…





近づいてきた悟空の千鳥足と、酒臭い吐息に三蔵は自分の願いが叶わなかったことに失望し、湯殿で感じた悪寒が外れていないことに暗澹たる想いを抱いた。
そんな三蔵の様子など酔っぱらった悟空が気付くはずもなく、悟空は三蔵にそれは嬉しそうに抱きついた。
そして、

「さぁんぞー、イイことしよう?」

と、甘く誘ってきたのだった。

「さぁんぞぉ──ってばぁ…」

熱っぽい艶と扇情的な色を纏った悟空の瞳が三蔵を見上げてくる。
その姿に、三蔵は自分の雄の部分が煽られるのを感じた。
だが、自分が下心を持って酔わせたのならいざ知らず、勝手に酒を飲んでくだをまく酔っぱらいを相手にする気はない。
三蔵は疲れたような吐息をこぼし、悟空を腰に抱きつかせたまま寝台へ向かった。

「うふふぅ…さぁぁんぞぅっ」

寝台の傍に着いたかと思う間もなく悟空は三蔵の腰に抱きついたまま、自分から寝台に倒れ込んだ。

「お、おい!」

無警戒だったお陰で三蔵は目が回り、ほんの一瞬、何がどうなったのか訳が分からなくなった。
くらりとした感覚が元に戻った時、三蔵は悟空に組み敷かれていた。

「…っぅ、このっ──?!」

三蔵の顔を挟むように悟空は両手をつき、三蔵の身体を両足の間に挟み込んだ四つん這いの格好で、三蔵を見下ろしていた。

「さぁんぞ、イイことしよう?」

込み上げてくる笑いを堪えることが出来ないのか、悟空はくすくすと喉を鳴らして笑う。

「何がイイことだ。どけ、酔っぱらい猿」
「酔っぱらいじゃ、なぁいもぉ──んっ」
「それが酔っぱらってるっていうんだよっ!どけっ!」

挟み込まれた腕を引き抜き、三蔵は悟空の華奢な身体を押しのけようとした。
だが、どうしたことか悟空の身体はびくともしない。

「てめぇ…」

三蔵の眉間の皺が深くなり、声が地を這う。
しかし、三蔵の機嫌が下降線を辿っていることなど悟空は気にも留めない。
いや、気付きもしていないのだろう。
自分の身体を押しのけようとする三蔵の両腕を掴むなり、シーツに縫いつけた。

「離せ!」
「だぁ──めぇなのぉ」

身を捩って逃れようとする三蔵に悟空はそれは幸せそうな笑顔を浮かべ、恐ろしいことを言い始めた。

「こぉれかぁら─…さぁんぞぅを俺が好きにするのぉ───えへへ…だぁって、俺がさぁんぞぅのモノってことはぁ──っ、さぁんぞぅだぁってぇ─…俺のモノってことでぇ…────んっとぉ…」
「…な、に…を……」

にんまりと笑いながら悟空は小首を傾げ、少し考えたあと、舌なめずりするような声音で言葉を続けた。

「だーかーらー…俺の身体にさぁんぞぅがつけた赤い印を三蔵にもつけるのぉ──…したらぁ、さぁんぞぅがぁ…俺のってわかるじゃん、なぁ──っ?」

その言葉に三蔵の血の気が引いた。

三蔵と悟空が身体を重ねるようになって、ずいぶんと経つ。
初めて悟空を抱いた時は、自分が何をされているのかよく理解してはいなかった。
ただ、三蔵に触れてもらえる、それは気持ちが良いことだ、普段触れられない三蔵に好きなだけ触れられると、そう思っているのだと、三蔵は悟空の態度や行動から理解していた。

それが、「悟空が三蔵のモノなら、三蔵も悟空のモノだ」と、言った。
その上、三蔵が悟空のモノだと世間に知らしめたいとも。
酔っぱらっているとはいえ、それは三蔵には衝撃だったが、その反面嬉しさを感じずにはいられない言葉だった。

けれど、だからといって悟空に自分の身体を好き勝手されるなど、冗談ではない。
まして、世間に知らしめるなど言語道断。
死んだってごめだ。
だから、悟空が自分の身体に痕をつけたがるのを今まで阻止してきたというのに。

「ふ、ふざけたことぬかしんじゃねぇっ」

本気で悟空の腕から逃れようと三蔵は暴れ出した。
が、人間と妖怪。
力の差は年の差よりも、体格の差よりも歴然として、三蔵はどんなに足掻いても悟空の下から逃れることが出来なかった。

「こんのぉ──っ!」
「さぁんぞっ」

嬉しそうに顔を近づけてきた悟空の顔目がけて三蔵は、唯一自由になる首を思いっきり突き出した。
ごちんっと、鈍い音がして三蔵の目の前に火花が散った。
だが、その拍子に悟空の三蔵を拘束する力が一瞬、緩んだ。
その隙を逃さず、三蔵は渾身の力を込めて、悟空を自分の身体の上から振り落とした。
ごろんと寝台に仰向けに尻餅をついた悟空の身体をついでに蹴り落とす。
鈍い音を立てて、悟空は床に寝台から転げ落ちた。

「──っでぇ…」

三蔵の頭で殴られた顔を押さえ、床に寝転がったまま悟空は、寝台の上から憤怒の形相で見下ろしている三蔵の顔を見上げて、へらりと笑顔を浮かべたのだった。

「…──?!」

悟空の浮かべた笑顔に三蔵は思わず、毒気を抜かれた。
鼻の頭を赤くして、酒で赤い顔が更に赤くて、本当に一瞬、悟空の顔がサルに三蔵には見えた。
それが三蔵をまた無防備な状態にした。
その隙を悟空が逃すはがない。
酔っぱらってもそこは野生児。
もとい、妖怪。
三蔵が身構える隙を与えず、悟空はまた、三蔵を組み敷いた。
今度はその腰の上にまたがって膝で腕を押さえ、両手で肩を押さえる念の入れようだった。

「離せ!サルっ!」
「やぁ──ぁだぁ─…印をぉつけるのぉ…─」

むうっと、酒で赤くなった頬を膨らませ、悟空はいやいやと幼い仕草で首を振る。

「悟空っ!」
「だ─め─なぁ─のっ…あっきらめてぇね──っ」
「──…っ、や、めっ」

言うなり、悟空は先程三蔵が悟空の顔にぶつけて赤くなった額をぺろりと舐めた。

「……こ、こぉ赤いのぉ」

そう言って、またぺろりと舐め、えへへと照れくさそうな笑顔を浮かべた。
楽しそうな悟空とは裏腹に、三蔵は生きた心地がしない。
このまま立場が逆転するのではないかと青ざめる。

「は、離せっ!」
「さぁんぞうは、きれーだからぁ…──どこからにしよ─かなぁ」

悟空の言葉に、どうにも逃れられない身の危険を感じて、三蔵は唯一自由になる足をばたつかせ、首を振って何とか悟空の拘束が緩まないかと、足掻いた。
けれど、そんなことで悟空の拘束が緩むはずもなく。
睨むように見上げれば、艶めかしい色に染まった金瞳と視線が合った。
その金瞳の色に一瞬、魅入られる。

「……ご…くう…」

抵抗を忘れた。

「さぁんぞぅ…だぁいすきぃ──っ」

ちりっとした痛みを首筋に感じて、三蔵は紫暗を見開いた。

「ひとーつぅ…」
「はな、せっ」
「やぁ──だぁ。ふたぁつぅ」

鎖骨の上にちりっとした痛みを感じる。

「…や、めろっ」
「みぃっつぅ」

ぺろりと、はだけた夜着の襟元から見える三蔵の胸の飾りを悟空が嬉しそうに舐めた。
途端、ぞくりと肌が粟立つ。

「離しやがれっ」
「ここぉ、きれーな色ぉ」
「──っなっ!」

もう一度、三蔵の胸の飾りを舐め、そこの横を強く吸って悟空は紅い華を咲かせた。

「えへへ…さぁんぞうぅがもぉ──っときれーになったぁ」

顔を上げ、自分がつけた赤い痕をそれは嬉しそうに眺め、悟空は更に三蔵の夜着の襟を開き、鳩尾、脇腹、臍の周囲へ口付けを落としながら、紅い華を刻んで行く。
そのたびに三蔵は身体をひくつかせ、背筋を這い上ってくるざわめいた感覚に声を上げそうになった。
そう、どうしようもなく雄が刺激されるのだ。

「…っぁ…は、はな…せっサル」

悟空が身体を下げたお陰で動かなかった肩と両手が自由になったが、悟空が三蔵に与えるざわめいた感覚が抵抗する力を萎えさせる。

「ゃめ…──ろ…」

拙い口付けが三蔵を煽るのか、自身が熱を持ちだしたことに三蔵の顔がバラ色に染まる。
三蔵の白い肌に赤い痕をつけることに夢中になっている悟空は、三蔵の身体の変化に気付いてはいない。

「やだってぇ…言ってるじゃんかぁ──それにぃ、さぁんぞぅってば、益々きれーになってんだぞぉ」

そう言って悟空はするりと、目の前にさらけ出された三蔵の下腹を撫で、へらりとまた笑った。
が、三蔵はそれどころではない。
悟空がするりと下腹を撫でた瞬間、背中を走り抜けた快感に思わず声を上げそうになったのだ。
それをぐっと堪え、三蔵は自由になったが、悟空が与える刺激でロクに力の入らない上半身を震える腕で支えながら起こした。

「ど、ど…けっ──ぁっ…!」

最後まで三蔵は怒鳴ることが出来ずに、両手で口を押さえ、寝台に沈んだのだった。

それは悟空が内股に顔を埋めたからだった。

その瞬間、三蔵は身体を脳天まで走り抜けた凄まじい快感に思わず、あられもない声を上げそうになった。
生まれてこの方、他人に触れられたことなどない場所を悟空が無造作に暴き立て触れたのだ。
ただでさえ、悟空に触れられた身体は三蔵の意志とは関係なく、熱く煽られて敏感になっているというのに、柔らかな悟空の髪が股を撫で、唇が肌を這えば、押さえなどきかなくなる。
悟空が触れる内股から這い上ってくる飛んでもない快感に、三蔵は自分の口を両手で塞ぎ、唇を噛みしめて耐えた。
それでも身体はひくりと悟空が紡ぎ出す快感に震え、腰が揺れそうなる。
その上、煽られた雄ははっきりと熱を持ち、下着を押し返している。
けれど、三蔵の身体の変化に、赤い痕をつけることに夢中な悟空は気付きもしない。

「──…ぁくっ…や、め…ろ───っあ…」

抗う声が震えて、自分では信じられない甘く色付いた吐息が零れる。
それを必死で呑み込みながら、三蔵は力の入らない身体を起こした。

「……ご、…くぅ…はな、せっ…」

自分の内股に顔を埋める悟空の大地色の頭に手を伸ばしたその時、

「い──っぱいついたぁ──っ」

そう言って悟空が顔を上げた。
その声に思わず自分の内股と雄を主張する自身を見た三蔵は、何かが自分の中でキレる音を聞いた。

「───……っ、のぉ…──っ」

今まで力が入らなかったのが嘘のように三蔵は、自分の足の間で万歳と手を上げる悟空のその腕を掴むなり引き倒した。
そして、そのまま押さえつける間もあらばこそ、寝台の上から蹴り落とす。
それはもう渾身の力を込めて、床に叩き付ける気持ちと勢いをを込めて。
悟空は急に腕を取られたかと思えば、身体の上に三蔵の重みを感じ、次いで脇腹に痛みを感じた。

「…ぃあ──ぁでっ」

痛いと声を上げる間もなく悟空は床に叩き付けられ、眼の中に星が散った。
くらくらする頭で寝台を見上げれば、夜着の前をはだけさせ、雪石膏に例えられる白い肌に紅い華を散らせた三蔵が仁王立ちしていた。
悟空を見下ろす三蔵の顔はバラ色に染まって、その色は白い肌をも薄紅に染めて、怒りの形相も顕わな姿なのに、悟空には酷く艶めかしく映った。

「…さぁんぞぅ──ってばぁ…めちゃぁ、きれ──…えへへぇ…」
「なっ…!」

とろりと蕩けきった笑顔を悟空は浮かべ、その言葉に三蔵の顔が益々朱に染まった。
何か言い返そうと三蔵が狼狽えている間に、悟空は大きなあくびを一つすると、まるで電池が切れた人形のように床に突っ伏してしまった。

「──っご、くぅ…?!」

床に突っ伏したまま動かなくなった悟空を三蔵は寝台の上から覗き込んだ。
その耳に聞こえる規則正しい寝息。

「ぅ…こ、この───ぉおぅっ」

発散しきれなかった怒りを抱えた三蔵はぶるぶると拳を握って、悟空を今すぐ殺してやろうと、冗談ではなく頭をもたげた衝動。
よくあの時、引き金を引かなかったと、後で考えて安堵する程の殺意。
それに三蔵は耐えた。
そして、足音も荒く寝台を降りると、もう一度、気持ちよさそうに眠る悟空の身体を蹴飛ばし、湯殿へ向かった三蔵は長い間湯殿から出てこなかった。



翌朝、二日酔いで床の上で目覚めた悟空が、三蔵の持ち越された怒りに触れるのはまた別のお話。


michikoさま/AQUA


ほわわわぁ。さすがです、michikoさん!
なんて三蔵が艶っぽいんだ。攻が声をあげるのっていいですね。ゾクゾクしちゃいます。
(あ、引かないでくださーい。帰ってきてください!)
色香の立ち上る攻を堪能させていだたきました。ありがとうございました<(_ _)>