ハム三蔵のお話 1


バイトしているショッピングモール内にあるペットショップでバイト帰りに動物たちを眺めて帰るのが日課になって店員さん達とも顔見知りになった頃、無料でいいから飼ってみないかと勧められたのがハムスターだった。

ほんとは人嫌いな性格のせいで売れ残っていたハムスターの貰い手を捜して困っていただけだったらしいけど、俺のうちにやってきたそいつはすっげえツンデレなハムだった。


「お〜い、さんぞっ」

コンコンとゲージの扉を叩いてみても全然こっちにこようともしない。
それどころか、チラッと一瞥したくせに知らんぷりなんてしてくれちゃう。
急に変わった環境に慣れないのか、懐いてくれる気がないのか……。

「さんぞっ、こっちおいでってば」

今度はゲージの蓋を開け、手を突っ込んで三蔵の近くに差し伸べる。

「ほら、こっちこいよ。さんぞ〜、おいで、おいでっゴハンだよ?」

ペットショップの店員さんでさえ持ち帰り用の箱に三蔵を移すのに直接触れることができなくて、噛まれても平気な厚手の手袋をしてさらに網まで使うほど苦労していた。
それほどまでに人嫌いなハムなんて果たして他にいるんだろうか??
そんな話聞いたことはないけれど、目の前にそんなハムがいるんだからしょーがない。

ここは安全な場所だし俺が大事にしてあげるから、だから安心してね?と噛まれるのも覚悟して掌を三蔵に差し出し、そのまま動かさずに乗ってくれるのをひたすら待ってみる。

「さんぞ、大丈夫だよ、怖くないよ?」

どれくらいの時間そうしていたんだろうか。
すり、と柔らかな感触が指先に触れたのはバイトの疲れからかうとうとと眠気が近寄ってきた頃だった。

「っ!さんぞっ、ほら、おいで?」

掌に温かで柔らかい毛に包まれたカラダが収まったのを確認してゆっくりと目の高さまで持ち上げて見つめる。

「さんぞ、俺は悟空だよ。今日から仲良くしよーな?」

指先でそっと柔らかな毛並みを撫ぜてやれば背けられるカオ。
それでも噛み付いたり暴れたりしないで大人しくされるがままでいてくれた。
エサに、と貰ってきたヒマワリの種も一つずつ手渡してやればちゃんとそれを受け取って食べてくれたし、もしかして懐いてくれたかな?なんて頬ずりしたらすごーく嫌そうに手から飛び降りて逃げてしまう。

「んー、もうっ逃げんなよ〜」

なんて、こんなやり取りを何日も繰り返して。
まだ懐いてくれてないかと落ち込んでいたある日、いつもの様に逃げたはずの三蔵が戻ってきて掌によじ登ってきたから驚いた。

「……さんぞ、かまわれるのキライ?」

問いかければ、「しょーがねえからかまってやるよ」って聴こえてきそうなくらい渋々と、でもふわりと押し付けられる柔らかなカラダ。

「さんぞっ、さんぞ〜、ふわっふわだなっ」

三蔵との関係が一歩前進したのが嬉しくて、その日はベッドの枕元に三蔵用の寝床を準備して一緒に眠った。

その夜、夢の中で三蔵とたくさん会話した。
と言ってもほとんど俺が喋って、三蔵はただ「ああ」って相槌うつだけだったんだけど。なんか不思議な、それでいて妙にリアルな夢だった。
こんな風に普段も三蔵と話ができればもっとコミュニケーションとれるのにな、なんて。


なんて、思っていただけだったのに……


「ったく、起きるの遅せぇんだよ」

「えっ?!」

耳慣れない声に周りを見渡しても誰もいない。
寝ぼけて夢の続きでも見てるのかな?なんて二度寝を決め込もうとすれば、また……

「おい、いい加減に起きろよ。悟空。」

今度は名前を呼ばれて、眠気も完全に吹っ飛んだ。

「っ????」

顔のど真ん中に乗っかってきたのは三蔵。
もちろん一人暮らしのこの部屋に他に誰もいるはずがない。



……まさか??まさか、ね???


「……おい、聞いてんのか。」

「さっ、さんぞーーーーっ?????」

「うるせえ。そんな大声出さなくても聞こえる。」

「い、いま喋った?喋ってるの三蔵なの??」

「悪ィか?」

「これって夢?」

「……てめえは目ェ開けて寝んのか?」

「っ、うわーーーーっ!!!!!三蔵が喋ったーーー!!!!」


三蔵が懐いてくれたと喜んだ次の日、目が覚めたら会話ができるようになってました。
なーんて、なんかのマンガじゃあるまいし?
三蔵はもう家族の一員だし、意志の疎通は大事だけど、こんなことって……


「ま、いっか?」

会話できるなら便利じゃん??
なんて、もともと楽天家の俺は驚きの事実もすんなり受け入れて前向きにいくことに決めた。


「さんぞ〜」

ベタベタと擦り寄ればやっぱり逃げられるけど、なんかもうそれも許せちゃう。
三蔵がココロを許してくれたから話せるようになったんだよね?

「嬉しいよ、さんぞぉダイスキっ!」



みけさま@辻風


ツンデレなハム三蔵ですよっ。予想以上の可愛さにすっかりやられてしまいました。
渋々ながらも、すりっなんてされた日には、そのギャップから撫でくり回したくなります。
お話をいただいて、呟いて良かったなぁって思いました(*^-^*)