ハム三蔵のお話 2


給料が出たら買おうとずっと心に決めていたものを手に、俺は意気揚々と帰宅した。
ゲージの中で眠っていた三蔵をちょっと可哀想だけど起こしてちょっかいをだす。

「ほらっさんぞっ」

ただいまも言わずに差し出されたモノを見て一気に不機嫌になった三蔵はゲージの隅に身を隠したけどその隙にと設置したのは巷でよく目にするハム用運動グッズ、大車輪!

「ねえ、さんぞ?これ、どうかな??」

指で軽く回せばカラカラと音をたてて回転する滑車。

「………ますます狭くなったじゃねえか。」

てっきり喜んでくれると思っていたのに反応はすこぶる悪い。

「でもこういうので運動しなきゃいけないんだろ?なんか楽しそうじゃねぇ?」

「…………。」

ペットショップでも一心不乱に走って車輪を回すハムを見てきた俺は、三蔵にもやってみてほしくて期待の眼差しを送る。


「さんぞっ」

「…………。」

「ねー、さんぞ?」

「………………。」

「もしかして運動苦手だった?」

「…………チッ」

どうやっているのか、大きな舌打ちの音と一緒に車輪の中に渋々入っていく三蔵。
危なくないように、とさりげなく車輪が回らないように押さえておいた指を離せば三蔵の動きにあわせてユラユラと揺れるそれは三蔵が駆け出すとすごい勢いで回り始める。

カラカラカラカタカタ…………ッ

少々大きめの三蔵のカラダには車輪のスペースは狭いのか窮屈そうだと思いながらも期待通りに運動グッズを使ってくれる三蔵に興奮する。

「すげえっ!三蔵すっごい早いよっ!」

軽やかな音をたてて車輪を回す三蔵に歓声を送りながらしばらく楽しんでいたのだけどハアハアと荒い息の音が聞こえてきたからそろそろ休もう?と声をかけた、その直後。

回る車輪から勢いよく弾き飛ばされた三蔵のカラダが宙を待ってベシャリと落ちた。


「………ッ?!」

そのまま動かない三蔵に慌てふためいて、走る者がいなくなっても回り続ける邪魔な車輪をゲージから取り出して三蔵を救出しようと手を差し出せばむくりと何事もなかったかのように立ち上がる三蔵。促されるままに、少々よろめきながらも掌に乗っかってきてくれたからどこか怪我をしていないかとくまなく全身をチェックする。

「さんぞ、だ、大丈夫……??」

「………………フン」

怪我はなかったけど背中を打ちつけたのだから痛いだろうと優しく撫でてあげながら、あんな危ないものを買ってきてゴメンと心の中で侘びた。


「……あれ、みんなどうやって脱出してんだろうね?」

「……んなこと知るか」

「俺、今度ちゃんと確認してくるからっ」

「……………もうやんねぇぞ?」


後日、ペットショップの店員さんに相談したら「慣れ」が必要らしいと言われた。
子ハムなんかだとよく跳ね飛ばされるのだとか……
でもこれは、プライドの高い三蔵には内緒にしておいてあげることにしよう。

他のハムみたいに車輪回せなくても、ね。
会話できるのは俺の三蔵だけだし、それだけでもう十分すぎるほど満足だから。



みけさま@辻風


例の(笑)滑車のお話です。
この後、実際にハムを飼っている人とお話したところ、ホントにぽーんって飛ぶことがあるそうです(^^;。
意外とハムって丈夫?
でもちゃんと降りられるコもいるそうなので、ハム三蔵はちょこっと不器用さんかもしれません。