Vinculum (1)


「さて、どっちに行く? 右? 左?」

学び舎アカデミーの門を出たところで尋ねた。
ハラハラと、門の側に植えられた木から花びらが舞い落ちる。仰ぎ見れば、薄いピンクに色づいた木の背景は抜けるような青空。

「いい天気だね。旅立ちにはぴったり」
「別に雨が降ろうが槍が降ろうが関係ねぇよ」

隣からそんな憎まれ口が聞こえる。

「もぅ、こうは。関係ないわけないだろ。晴れてる方がずっといい」
「出発する日はどうせ今日って決まってるんだ。天気なんてどうでもいいだろう」
「そうじゃなくて……。んと、もしかして、江ってば、ここを離れるのイヤ?」

それで拗ねたような様子を見せてるんだろうか。
まぁ、友達もいるだろうし、な。離れるのは寂しいのかもしれない。

「なんでそうなる。却って清々する。これでもう煩いことを言われなくてすむかと思うと」

……うーん。この尊大な性格だと、あんまり友達はいなかったのかも。

「なんだ?」

こっそりついた溜息が聞こえたのか、まっすぐに江がこちらを見つめてくる。
揺るぎない強い紫暗の瞳。
少々難ありな性格に育っちゃったけど、でもこんな風に強くまっすぐならいいか。

「いや、おっきくなったな、って」

そう言ったら、心底嫌そうな表情が浮かんだ。なので、肩をすくめて話題を変える。

「で、どっち?」
「前の時は?」
「左」
「じゃあ、右」

言うなり、スタスタと右に折れて歩き出す。

「ちょっと、待ってよ、江。そんなんでいいの? ここが岐路かもしれないのに」
くう。お前は誰の守護者ガーディアンだ?」
「江の」
「それがわかっていればそれでいい。俺は前のヤツとは違うってな」

……それで逆の方向か。で、拗ねたような態度をとっていた理由もそれね。学び舎アカデミーを出るときに金蝉の名前を出したから。

「江は江だよ。そんなの、当たり前じゃん」

急に江の足が止まった。

「そうだ。そして、お前は俺の、だ」

そして、不意打ちのようにキスされた。

「江っ!」

咎めるように声をあげるが、それに対する答えはなく、江はくるりと背を向けて何事もなかったかのように歩き出す。
……まったく。
その背中を追いかけるように駆け出した。