Vinculum (2)
学び舎を出て半日近くが過ぎて、ようやくふもとの町に辿りついた。そこは覚えていた以上に賑わっていた。
「すごい、賑やかだね。それにこれだけ物が揃ってるなんて。便利になったもんだ」
店先に並んだものを見て歩きながら言う。
「それだけ
狩人の需要が高いってことだろ」
「……そっか」
この世界は密かな危機を孕んでいる。
魔物――この世界を蝕む者たち。
魔物を打ち滅ぼすことができるのは、
狩人のみ。
学び舎は、
狩人を育成するだけでなく、一人前となった
狩人の統括を行っている場所でもある。
だから必然的に、いろいろな情報や物資が集まり、その量に伴って人の出入りも多くなり、そうなればそれだけそのお膝元の町も活気づくというわけだ。
つまり、ここが賑わっているということは、世界がそんなに平穏ではないということ。
「
江は凄いね。この賑わいからそんなことがわかるなんて」
並んで歩く横顔を見る。
午後の日差しに金色の髪がキラキラと輝いていた。綺麗な横顔――会えなかったのは少しの間だけだったのに、大人っぽくなったみたいだ。
「別に凄くはねぇよ。
空、そこ、入るぞ」
素っ気無く答えたあとで、江が指し示したのは。
「宿屋? なんで?」
「なんでって、今日の宿、決めなきゃならないだろ」
「へ? この町に泊まるの? だってまだお昼過ぎたばかりだよ。もうちょっと距離を稼がないと」
「別に急ぐ旅じゃねぇだろ。だいたいこんな面倒なこと……」
「んなこと言ったって、江は、三蔵法師を継いだんだから」
「好きで継いだんじゃねぇよ。だいたい、お前が俺のモンだって初めっからわかっていれば、こんな面倒なもんにはならなかったんだよ。責任、とれよ」
「ちょっと待って。なんかそれって、論理が破綻してるんだけど」
強引に引きずられるように、手首をつかまれて連行される。
「それに、別に
守護者は
狩人のものってわけじゃないし」
そう言ったところ、江の足が止まった。
「だが、お前は俺のモノだろ?」
まっすぐに見つめてくる黄昏時を思わせる紫の瞳。
あまりにも澄んでいて。あまりにも真剣で。
ふっとため息をついた。
甘い、というのはわかってる。だけど。
「……そうだよ」
答えると、笑みが浮かんだ。他人には決して見せることのない、綺麗な笑み。
こんな表情を見せるから、どうしても、昔から江には甘くなるのだ。
もう一度ため息をつき、上機嫌の江にされるがまま、引きずられていった。