Fateful Encounter (3)
「あ、そうだ」
ようやく落ち着いてくれた金色のふわふわを、にこにこと眺めていて、突然気づいた。
「君の名前、決めなきゃね。って、その前に、俺、悟空っての。ご、く、う」
一音一音、区切ってわかりやすく発音する。
「どんなのがいいかな」
可愛いのがいいな。まんまる、ふわふわだし。
って、考えたところ。
「第三十一代目唐亜玄奘三蔵」
突然、念仏のようなコトを言われた。
「え? えぇ? ……象?」
聞き取れた最後のところだけを返したら、ピキンとふわふわが固まった。
なにやらちょっと不機嫌っぽいオーラが出てる……と思ったけど、あからさまに溜息をつかれて、呆れたように言い直された。
「だから、第三十一代目唐亜玄奘三蔵だ」
けど、そんなん、覚えられるわけないじゃん。
「……えぇっと、短くして三蔵ってのは?」
とりあえずなんとか理解できた名前っぽいものを言ってみる。
と、また溜息をつかれた。けど。
「……勝手にしろ」
そう言ってくれる。
「ん。じゃあ、三蔵な。三蔵」
名前を教えてもらったのが嬉しくて繰り返して呼ぶ。
でも、ふと疑問に思った。
「なぁ、でもなんで『三蔵』なんだ? 兄弟がいて三番目の生まれだとか?」
「アホ」
素朴な疑問を口に出しただけだったのに、ひとことで切って捨てられた。
「三蔵というのは、な」
「うんうん」
「……お前に言ってもイミがねぇな」
聞く体勢になっていたのに、ぷいっと横を向かれ、なんだかガクってなる。
「なんだよ、それ」
「これはお師匠さまから頂いた大切な名前だが……人間には意味のないことだ」
「……うー」
取りつく島がないって感じ。思わずうなり声をあげてしまうけど、でも。
「ま、いっか。三蔵が話したくなったら話して」
そう言うと、そっぽを向いていた三蔵がこっちを向いた。
不思議そうな顔をしている――というのは間違いじゃないだろう。三蔵ってハムスターだからってことだけじゃなくて、ちょっと表情が読みにくいけど。
にっこりと笑ってみせると、またふいっと横を向いてしまった。
そういうのもかわいいなと思うのはヘンかな。
「な、三蔵。そういえばさ、三蔵ってどうして人間の言葉を話せるの? ハムスターって普通、人間の言葉を話せないよね?」
それとも実は話せるんだけど、ナイショにしているとか――だったらSFになっちゃうけど。
「そういえば、さっきお師匠さまって言ってたよね? もしかしてお師匠さまっていう人に習ったとか?」
「違うし、別に話しちゃいねぇよ」
「は?」
「お前が勝手に人間の言葉に変換してるんじゃねぇのか?」
「って、えっと……」
なんだかよくわからない。
「それってどういうこと?」
「知るか」
簡潔にして明快な答え――と言っていいんだろうか、こうゆうの。
「でもさっき三蔵、『後で教えてやる』って言ってなかった?」
「あぁでも言わなきゃ、お前、いつまでも驚きっぱなしだったろうが。そんなのに付き合っている暇はなかったからな」
つまり、一刻も早くケージを移動させて欲しかったってこと?
……まったく、もう。
って思うけど。
「ま、いっか。通じるんなら、便利だもんな」
そう言ってケージの隙間に手を突っ込んで、三蔵の頭を撫でようとしたところ。
「イテッ」
また齧られた。
「不用意に手を出すな」
ぷんぷんと怒って、三蔵はケージの隅の方――指が届かないところに行ってしまう。
話せるからって、仲良くなれたわけじゃないみたいだ。
少し淋しい気もするけど、でも、ちょっとずつ仲良くなっていけばいいか。
ケージの隅には行っちゃったけど、相変わらずのふわふわ金色は綺麗で、なんだか意味もなく笑みがこぼれた。