Fateful Encounter (2)
家についたところで、両手にケージを抱えたままで部屋のなかを見回した。
えと……このケージ、どこに置こう。
ちょっと途方に暮れるような、そんな気分を味わう。
お店のなかではそうでもなかったんだけど、意外と大きいかな、このケージ。
なんでもこの金色のふわふわのハムスターはこのケージじゃないと嫌がるそうで――というか凶暴さが増すそうで、ケージごと貰ってきた。
んだけど、どうしよう。
えと……とりあえず、こっちの部屋の隅かな。あんまり窓に近くない方がいいかもだし、夜行性って言ってたもんな。
で、とりあえず部屋の隅にケージを置く。
それから被せておいた布をちょっとめくってみると――なんだか落ち着かなげにウロウロしているのが見えた。
んと、ご飯はお店を出るときにたくさん入れてもらったからそのままで、とりあえずお水をセットして……。
あとは落ち着くまで2、3日は構わない方がいい――って話だった。
よし。じゃあ、あとは静かにしとこ。
――そう思って3日がたったのだが。
夜、バイトから帰ってきて、そっと布をめくるとやっぱり落ち着かなげに、金色のふわふわがケージのなかをウロウロしていた。
家に来た日も、次の日も、そして今日も。それはずっと変わらない。
なんだろ。なにが気に入らないんだろ。
とりあえずエサは新鮮な方がいいだろうと交換しようとすると。
「イテッ」
指を噛まれた。結構強く。血が滲んでくる。
「……もう。なにがそんなに気に食わないんだよ」
ものすごく不服そうな顔をしてこちらを見ている――ような気がする金色のふわふわに囁きかけた。
っていっても無駄なのは百も承知だけど。
「あぁ、もう。話ができるといいのに。そしたら、なにが嫌なのかわかるのに」
そう呟いて、ふと気づく。
「あ、でも俺が嫌、とか言われたら――立ち直れない、かも」
思わず想像してなんかズンと落ち込む。
だって。
綺麗だ、って思ったんだもん。すごく綺麗でキラキラしてて――。
「違う、馬鹿」
と、なんか声が聞こえた――ような気がした。
……って、え? 気のせいだろうか。
辺りを見回す。もちろんだれもいない。いるはずがない。
空耳かな、と思ったところ。
「こっちだ」
また声がした。
こっち、って――。
ケージのなかのふわふわと目が合った。
まさか、ね……。
「通じてるようだな。なら都合がいい。お前、この家をここから移動させろ」
「……」
たっぶり十秒ほどじーっと金色のふわふわと凝視してしまう。
「なにをしてる。早くしろ」
が、重ねて言われて。
「え? え? えぇぇーっ?!」
かなり大きな声をあげてしまう。
「……うっせぇな」
「って、だって。これ。この声って……」
「んなのは後で説明してやるから、とりあえずこの家を動かせ。あの白いの横だと煩ぇんだよ」
ケージが置かれているのは部屋の隅だけど、その先はキッチンですぐそばに冷蔵庫があった。言われてみれば微かにモーター音がするし、ときどきもっと大きな音もしてる。
「そっか、これが嫌だったのか」
ケージを持ちあげて、今度は部屋の入口近くになっちゃうけど、なにも置いてないところにと持っていく。
「これならどう?」
金色のふわふわは、しばらく伺うように後ろ足だけで立って辺りを見回していたが。
「ま、いいだろ」
そう言って、やっと落ち着いたように座り込んだ。
なんだか笑いがこみあげてくる。だってここが気に入ってくれたということだから。
「これからよろしくな!」
すごくすごく嬉しくなって、そう声をかけた。