The Apple of the Eye (1)


さて、これからどうしよう。

途方に暮れて公園のベンチに座り込んだ。片膝を抱いて、丸まるような姿勢になる。目を瞑って、膝の上に頭を落とした直後、いきなりヒステリックな声が辺りに響いた。
甲高い声すぎて、何を言っているのかはわからない。何だろうと思って、声のした方に顔を向けた。

と、突然飛び込んでくる、美貌。
あまりの綺麗さに息を飲んだ。

『雷に打たれたかのように』

あの表現はこのときのことを言うのだと実感した。
目が離せずにしばらくじっと見つめていたところ、金髪さん――その美貌の主は金色の髪をしていた――は、ふっと視線をこちらに向け、手招きをした。

俺?

思わず自分を指して小首をかしげる。すると、金髪さんは頷いた。
とてとてとその側に寄っていった。
それまで、まったく目に入らなかったが、金髪さんの前に栗色の柔らかそうな髪をした女性がいるのに気がついた。こちらに背を向け、俯いている。華奢な肩が少し震えていて、泣いているようだった。

「そんなに言うなら、証拠を見せてください。そうしたら諦められますから」

か細い声が聞こえてきた。あのヒステリックな声はこの女性のものだと思うのだけど、さっきのとは似ても似つかない可愛らしい声。
一体、何なんだろう。
そう思いつつ、すぐ側まで近づくと、
「ちょうど来た」
金髪さんがそう言って、俺の腕を掴んで引き寄せた。
わけのわからないまま、その腕の中に抱きしめられていた。目の端に女性の驚いたような顔が映った。が、それが意識に上るよりも前にもっと驚くことが起こった。

唇を唇で塞がれた。

いわゆるキス、というやつだ。
それも、ただのキスではない。舌を絡める濃厚なキス。

頭の中が真っ白になった。
やがて唇が離れていった。足腰に力が入らない。なんか腰が抜けそうだった。

「悪かったな」

金髪さんがそう言った。気がつくと女性の姿は消えていた。

今のは何――?

言葉に出して訊く前に、不意に金髪さんは背を向けた。
そして、そのまま歩み去っていく。
ちょっと、待てっ!
そう言いたかった。
だが、結局、言葉は出てこず、代わりのように体から力が抜けてその場にへたり込んだ。