HeartBeat
画面にエンドロールが流れて、ほぉっと息をついた。
借りてきたDVDは手に汗握るアクション映画。なんか映画なんて久々に見た。
大学生って、そんなに忙しくないってイメージがあったんだけど、全然そんなことはなくて。
授業だって結構詰まってるのに、最近はバイトとかサークルとかも忙しくて。
……ま、サークルは、遊んでることも多いけど、ね。
とにかく映画を見るのもそうだけど、家でのんびりというのは、久しぶりのことだった。
けど。
「ね、三蔵。ホントにどこも行かなくていいの?」
ちょっとだけ上を見る。
いまの体勢は、後ろから抱きこまれている感じ。
最初、こんな格好で映画を見るのは落ち着かないって思ってたんだけど、なんかそのうち気にならなくなっちゃって、結局、最後まで普通に見てしまった。
背中、あったかいし、横からお日さまがあたってぽかぽかだし。
かるーく眠くもなってきた。
なんだろうな、これ。
出会ったばかりのころは、少し触れるだけでもドキドキしてたのに。
「べつにどこも行かなくていい」
三蔵の唇が首筋に触れてくる。
あ……、と思うけど、でも三蔵は触れただけで、そのまま肩口に顔を埋めるようにして動かない。
寝ちゃった、の、かな?
ちょこっとだけがっかりする。
いや、別にいいんだけど。
こういうのも悪くないんだけど。
「……どうした?」
と、少しだけ肩を落としたのがわかったのか、三蔵が尋ねてくる。
こういうとこは、変わんない。ちょっとしたことにも気づいてくれる。
少しだけ体勢を変えられて、横抱きにされるようになって、そして目の上に唇が降りてくる。軽く、柔らかく、何度も。
「三蔵」
そっと寄り添う。もう少し触れていたくて。
「なんだ? お前、こういうのが好きだろうに」
額に唇を押しあてられる。
「足りないか?」
「ちがっ」
もう。
ぷくっと膨れる。でも。
「別に俺の好きはどうでもいいんだけど。三蔵、が……好きなようにすれば、いいのに……」
っていうと本当に好きにされそうで、ちょっとだけ語尾が怪しくなる。
けど、そのために今日は丸一日あけといたんだし。
それが三蔵のリクエストだったから、イロイロと覚悟も決めてたんだけど。
でも。
昨日の夜から別になーんもなくて、こうやって触れているだけ。
拍子抜け……っていうほどのものじゃないけど、なんかヘンな感じだ。
「好きにしているつもりだが……」
と、ふわっと体が浮いて、次の瞬間には床に押し倒された。
油断した、と思っているうちに唇を塞がれる。
舌を絡めとられ、軽く甘噛みされて、唇が離れていく。
「やっぱりこういう方がいいのか?」
額にかかる髪をかき上げられ、そこに唇が降りてくる。
優しい仕草。
だけど、いつもならこんな風に聞かれることはない。
それには違和感を覚えて、それで――。
「三蔵……」
体の下から抜け出す。
「えと……お茶、淹れてくる、ね」
ざわざわと波立つ心。それを知られたくないから離れようとしたのに。
無言のまま腕を掴まれて引き寄せられて。
無駄だった。
「なんだ? なにが気に入らない?」
「……俺、じゃなくて、三蔵が」
目を伏せる。
「――三蔵が」
ダメだ、と思う。けど、ダメだと思うそばから、考えてしまう。
もしかして三蔵はもう触れ合っているだけではドキドキしないだけでなく、俺に飽きてしまって、でも気を使ってそれを言えないでいる、とか――。
ふぅ、と溜息が聞こえてきた。
「お前、いまなんか良くねぇことを考えてるだろ」
ぎゅっと抱きしめられる。
「ったく、さっきまでくつろいでたくせに、どうした? 俺がなんかしたか?」
「……なんか、っていうより」
ちらりと顔色を窺う。
飽きた、ってわけじゃない?
「三蔵、ヘンだったから」
「は?」
「いつもはあんな風に聞いてこない。もっと強引。だいたい去年なんか、丸1日起きらんないくらいだったし」
いってて、思い出して赤くなる。
「あぁ、去年は余裕がなかったからな。そのうちいつかお前が消えてなくなるかもしれない、って思ってた。だから繋ぎとめとくのに必死だった」
三蔵の手に力が入る。
「だが、いまは違うだろ? お前はここにいる。普通にただそういうのを見てたかったんだが――結局、難しいな」
「さん、ぞ……」
思いもかけないことをいわれてびっくりする。
と、頬に両手を添えられた。
「機嫌、直ったか?」
聞かれた言葉に微笑む。そしてぎゅっと抱きついた。
そばにいることが当たり前になっても。
触れるだけで心臓が壊れそうになることはなくなっても。
でも。
大好き、という気持ちはなくならない。
どころか、ますます大きくなるような気がする。
「そうやっていつまでも笑ってろ」
三蔵の囁き声が耳に響いた。
――逆にプレゼントをもらったような気がした、大切な人の誕生日。