指輪


なぜだかわからない。
いつもよりもだいぶ前に目が覚めた。それはすごく珍しいこと。
まだ薄暗い朝の静けさ。
なんだが、特別な感じが空気に溶け込んでいるような気がする。

そっと、隣で眠っている三蔵の妨げにならぬよう身を起こした。
寝顔を上から覗き込むように見つめる。

眠っていても綺麗。

どうしてこの人は、どこもかしこも、何をしていても、こんなに綺麗なんだろう。
しげしげと見つめていたら突然、キラリと光るものに気がついた。

何、これ―――?
思わず、両手で三蔵の手を掴んでもっとよく見るために近づける。

「……いきなり、なんだ?」

幾分眠たげな、不機嫌そうな声が聞こえてきて、我に返った。

「あ、あぁ、えぇっと……」

うまく言葉が出てこない。

「何、泣いて……あぁ、それか」

俺の顔を見、それから掴まれたままの自分の手を見て、三蔵が溜息をついた。

「離してやらないと何度言ってもわからないやつだな。だいたい、お前、自分の手は見たのか?」

空いている方の手が伸びてきて、左手首を掴まれた。それから掴まれた手を目の前にと持ってこられた。そこには―――。

「……お揃い?」
「先に自分のに気づけよ。昨日試しにつけてみて、そのまま寝ちまったんだな。にしても、携帯のストラップじゃあるまいし、ただ揃いのためだけに買ってきたなんて思っているんなら、返してもらうぞ」

するりと指から抜かれる。

「三蔵、やだっ!」

取り返そうと手を伸ばす。と、目の前にかざされた。内側の文字が見える。


―――S to G

「さん……ぞ……」

コロリと、手の平に指輪が落とされた。

「失くすなよ」
「失くすわけないだろ」

指輪を握りしめて、体ごと三蔵にぶつかっていった。

「――大好き」

それしか言えなくて、それだけを呟いた。