3. 楽しかったね
ふぅ、とため息をついたところ。
「眠いなら、寝てもいいぞ」
隣で声がした。
「ううん。違う。眠くない。ただなんか楽しかったなーって思って」
ここは三蔵の車のなか。
家具屋さんにいった帰り道。
一緒に暮らすのにいろいろと家具がないと不便だろう、ということで見に行った。
なんでもいいよっていったんだけど、ずっと使うものだからといわれた。
ずっと、ここで暮らすのだから、と。
すごく嬉しかった。
手がのびてきて、くしゃりと髪をかきませられた。
「夕飯、どうする? 食って帰るか? それとも……」
「三蔵が嫌じゃなかったら、うちで食べよ。なんか作るから。簡単なものになっちゃうかもしれないけど」
「別になんか買って帰ってもいいぞ」
「うん」
頷いて、もう一度、深くため息をつく。
帰る家があるのは、幸せなことだとつくづく思う
もう二度と『家』なんてできないと思っていたのに。
暖かな想いを胸に。
早くうちに帰ろう――。